働く広場2022年11月号
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  はじめに厚生労働省が公表した、2021(令和3)年度のハローワークを通じた障害者の就職件数は9万6180件であり、2020年度の8万9840件と比べ7・1%増となった(※2)。コロナ禍で厳しい雇用情勢が続いているが、働きたいという希望を持ち続けている人の多さがうかがえる。また、2018(平成30)年4月に改正障害者総合支援法が施行され、新たな障害福祉サービスとして「就労定着支援」が開始となり、就職件数だけでなく、働き続けるための支援、サポート体制の構築が必須課題になっている。定着支援の取組みについてはいろいろと議論されているが、このエッセイでは発達障害のある人が就職する前に取り組むべき、働き続けるために必要な対応について考えていきたい。発達障害は先天性の脳機能障害であり、外見からはその人の強みや弱み、日ごろから困っていることなどを把握することがむずかしい。それは周囲の人間だけでなく、発達障害のある人自身も気づきにくいことではないだろうか。支援の現場にいると、発達障害と診断されたとしても何が根拠になっているのか、いまひとつ理解できていない人に出会うことも多い。また、本人の理解が不十分な場合、「自分は努力をしているのに周りからの期待値に届かない」、「なぜか人間関係がうまく実体験とふり返りなぜ離職したのかいかない」などの問題が生じやすい。これらにより鬱うつ病びやほかの二次障害などにつながることは避けたいところだ。彼らに対して支援者ができることは何か。特に就労移行支援事業所の場合にもっとも大切にしたいことは、本人の得手・不得手の整理である。作業プログラムの実体験を通じて、できたこと・むずかしかったことをふり返るのだが、単に「うまくいったからよし!」ではなく、なぜできたのか、うまくいった背景を本人と支援者が一緒に探る作業が重要になる。例えば、「一つずつ指示を出してもらえて理解しやすかった」、「先にモデルを提示してもらえたので完成のイメージが持てた」、「静かな環境で指示を聞けたので、話の内容に集中できた」など、成功のエッセンスが隠されているはずなのだ。また、ふり返りではよかったことだけでなく、むずかしかったこと・苦手だったことも一緒に確認する。うまくできなかったことは隠しておきたいのが人の性さがだが、発達障害のある人には支援者に安心して自分の気持ちを伝えてほしいと思う。成功のエッセンスがあるようにその逆も存在する。作業プログラムの様子は支援者も観察をしているので、他者の目線を通じた考察から「まだ気づいていない自分」を発見するためにも、自己評価と他者評価のすり合わせは大切にしてほしい。得手・不得手の整理や自己理解は、実体験と相談、ふり返りを一体的に、そして継続して行った結果に表れるはずだから。ょう職歴がある人の場合、離職理由のヒアリングとふり返りは必須である。漠然と「人間関係がしんどくて辞めた」、「職場の居心地が悪かった」と話をする人もいるが、その要因はどこから来ているのか。自己理解が不十分なために適職を選べなかったのか、それとも業務拡大やマルチタスクなど新しい作業が増えて徐々にしんどくなってきたのか。り返る作業を進めることで、次の就職に向けて自分自身でがんばることと他者に頼ることが明確になる。離職歴をネガティブにとらえる必要はない。前職の経験があるからこそ考察できることがあるので、職業訓練のなかでは「なぜ離職したのか」の話し合いを大切にしてみてはどうだろうか。       がある。企業にとっては発達障害のある人の作業遂行力を重視したいところだが、働き続けるためには、自分自身のことを建設的に整理できているかなど、作業遂行力以外の力が必要になる。職場における専門的なサポートが職場定着のカギになることもあるが、企業側のサポートと働く本人の自己理解は両輪で成り立つため、支援機関としては両者の橋渡し役になりながら、関係構築を支えることを重視したい。それでもどうしても離職してしまう人もいる。支援者と一緒にこうした過去のエピソードをふ働くためには検定や資格などが有利になる場合砂川双葉(すながわ ふたば)特定非営利活動法人クロスジョブ クロスジョブ堺・副所長。社会福祉士、介護福祉士。2013(平成25)年、特定非営利活動法人クロスジョブに入社。就労支援員としておもに発達障害のある人の支援、障害雇用を行う企業の支援を行う。2021(令和3)年、当機構の第29回職業リハビリテーション研究・実践発表会で、就労移行支援事業所におけるASD(※1)者のアセスメントと支援についての実践報告を発表している。働く広場 2022.11※1 ASD:自閉スペクトラム症※2厚生労働省「令和3年度 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況等」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26200.html第1回19発達障害と就労〜働き続けるために必要なこと〜特定非営利活動法人クロスジョブ クロスジョブ堺 副所長 砂川双葉

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