働く広場2022年12月号
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障害者の就労ニーズの多様化と雇用情勢の加速事例から見る在職障害者の就労支援企業には工夫して情報共有2022(令和4)年の6月に、厚生労働省が障害者雇用促進法に基づき企業などに義務づけている法定雇用率に関連し、週の労働時間が10時間以上20時間未満の障害者を1人雇用した場合の実績を0・5人として算定する方針を固めたという報道があった(※1)。いままでは週20時間以上働くことができるかが障害者雇用枠で働く境界線だったため、働き方の選択肢が広がることは障害のある求職者の今後のチャレンジを後押しすることになると思われる。民間企業の積極的な障害者雇用の増加を評価する一方、「障害者が能力を発揮して活躍することよりも、雇用率の達成に向けて〝数の確保〟を優先するような動きもみられる」との指摘もある(※2)。障害者雇用を通じて実現させたいことは、障害のある人が就労を通じて豊かな人生を送ることと、多様性のある人材のマネジメントを通じて企業が組織力を高めることだろう。こうした使命を果たすためには障害者雇用の質の向上が必須であり、そのための企業側への支援について、2回に分けて考える。特定非営利活動法人クロスジョブ(就労移行支援事業所)では、2018(平成30)年〜2019年の2年間、「大阪府障がい者委託訓練事業(障がい者の多様なニーズに対応した委託訓練)」に参画した。訓練の対象者は、民間企業に在籍している障害者手帳を所持する社員で、申込みの主体者は企業担当者だ。依頼内容は「書類選考や面接でのイメージと作業遂行の状態に乖かい離りがある」、「在職中に高次脳機能障害になり、今後の業務を検討するうえで相談に乗ってほしい」などだった(※3)。実施方法は、訓練の対象者にクロスジョブの就労移行支援プログラムに約2週間通所してもらい、作業体験(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が開発したOA作業、事務作業、実務作業に大別された評価・支援ツール「ワークサンプル幕張版」を使用)や、定期面談を通じてアセスメント、ふり返り、本人の仕事に対する思いなどを聞き取りながら自己理解の支援を行い、その内容を企業担当者に共有することで、今後の支援体制について助言した。初めて障害者を雇用した企業からは、「対象の社員が指示内容を忘れることが多く、教えられていないと嘘をつく。自分の書いたメモの内容を理解して作業ができない」との相談があり、配属先のキーパーソンが疲弊している状態だった。その対象者には身体障害があり、支援機関には所属せず単独で就職、また複数の離職経歴があった。訓練開始後、対象者にヒアリングを行ったところ「複数の指示のメモ取りが追いつかず、後半部分を忘れてしまう。メモを見返したときにどの指示に対する内容かを整理できなかった。年齢的に『わかりません』ということにとまどいがある」とのことであった。また、作業の行動観察を行うとマイルールで行動することや人との距離の近さなど発達具合の不均衡さも見られ、訓練ではメモ取り練習や暗黙のルールをすることで、職場における適切・不適切行為の理解支援を実施した。訓練の内容、本人の気づきについてはその都度、企業担当者に報告を行い、人事担当者や配属先の従業員にも参加してもらうミーティングを複数回実施した。企業への報告では、この対象者は身体障害だけでなく、発達障害の傾向が見られることを共有し、本人が理解しやすい指示の出し方(指示の量、話すスピード、視覚情報の使用、指示を出す環境の設定)の助言を行い、作業進捗の定期報告を行うことでつまずきが生じても早期に対応できる仕組みをつくった。また、職場内の具体的なルールを提示したうえで、本人もほかの従業員も過ごしやすい職場づくりの提案を行っている。次回は、現場の受入れ体制について考えます。       ■見える化■※1 福祉新聞(2022年6月28日付) ※2厚生労働省:第121回労働政策審議会障害者雇用分科会(資料) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26270.html  配布資料全体版 https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/000952203.pdf※3砂川双葉:第27回職業リハビリテーション研究・実践発表会発表論文 http://www.crossjob.or.jp/common/uploads/2019/12/74f46916171bb385dad530d2d9b75838_f8671fd4ff 3d3bc735b4f47656b7ef9d.pdf 「在職障害者の就労支援〜『大阪府障がい者委託訓練(在職者訓練)』から考える職業準備性と企業の雇用管理」働く広場 2022.12砂川双葉(すながわ ふたば)特定非営利活動法人クロスジョブ クロスジョブ堺・副所長。社会福祉士、介護福祉士。2013(平成25)年、特定非営利活動法人クロスジョブに入社。就労支援員としておもに発達障害のある人の支援、障害雇用を行う企業の支援を行う。2021(令和3)年、当機構の第29回職業リハビリテーション研究・実践発表会で、就労移行支援事業所におけるASD者のアセスメントと支援についての実践報告を発表している。19第2回発達障害と就労〜企業の雇用管理力をサポートする(1)〜特定非営利活動法人クロスジョブ クロスジョブ堺 副所長 砂川双葉

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