働く広場2023年1月号
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採用時、就職初期に必要なこと職場全体で、「働く土壌づくり」を今後、期待すること前回(※1)は、身体障害があり複数の離職経歴を持つ人が、職場において不適切な行為が見受けられる事例を紹介した。本事例の対象者は支援機関に所属せず単独で就職をしたケースであり、本人の自己理解の弱さや企業側もコミュニケーションがうまく図れず不適切な行為をする要因の把握ができていなかったため、職場内の歯車がかみ合っていなかった。そうした状況を受けて特定非営利活動法人クロスジョブ(以下、「クロスジョブ」)が実施したことは、(1)本人のアセスメントを行う、(2)アセスメント内容を基に支援を実施する、(3)アセスメント・支援内容を企業に共有する、(4)今後の働き方・サポート内容を助言する、という4点であった。就労移行支援事業所などを通じて就職したケースであれば(1)と(2)については求職活動前に取り組むべき内容だが、障害者雇用の数の確保が優先されると、このフローがずさんになることも大いに考えられる。クロスジョブは「大阪府障がい者委託訓練事業(障がい者の多様なニーズに対応した委託訓練)」に参画し、職場から離れた環境で自己評価と他己評価をすり合わせる場を提供してきた。採用時、就職初期の段階では、アセスメント・自己理解の量、そして内容が雇用の質に影響すると考える。そのため、支援機関が企業にできることはこれらの情報を提供し、企業と一緒に人材育成にかかる時間や期間、方針をともに検討していくことがあげられる。また、職場で問題が起こってから対処していくことはむずかしい面がある。企業と支援機関が早期に連携できていれば「違和感」の段階で情報共有することが可能になり、「これはどうなんだろう」と感じたことを継続的に伝えあえる。そのような関係性が重要だ。支援機関が企業とやり取りをする際、その窓口は人事担当者やキーパーソンに限られることが多い。しかし、働く本人は先輩や同僚などほかの多くの従業員とも一緒に仕事をしているため、現場の理解を深め協力体制を構築することは必須だ。企業訪問の際は、職場内の人間関係、パワーバランスをアセスメントすることはもちろん、現場の方々がどれだけ障害者雇用について把握しているか、興味をもっているかを確認していくことが大切だ。本事例では、訓練におけるアセスメントや       員にも出席をお願いした。現場の声を聴き、今後の方針の共有の場に、管理職以外の従業その声に応えるためである。管理職や支援機関からいくらお願いをしても、現場の受入れ体制が整っていなければ支援の効果は発揮されない。雇用の質を上げていくためには職場全体で「働く土壌づくり」をしていくことが必要で、その過程で支援機関ができることは、管理職のリーダーシップを得ながら継続した対話の場をつくっていくことだ。「企業のマネジメントを支えるために支援機関が存在する」というイメージで、対話では管理職から伝える方が効果的か、または専門家である支援機関から伝える方がよりよい結果につながるかなど、役割を分担しながら協力体制を構築していくことも検討しなければならない。厚生労働省は、企業等での働き始めに勤務時間を段階的に増やしていく場合や、休職から復職を目ざす場合に、その障害者が一般就労中であっても、就労系障害福祉サービスを一時的に利用できることを法令上位置づける障害者総合支援法等の改正法案を臨時国会に提出し、審議が行われている(執筆時点)。福祉から雇用への移行がしやすくなることや、福祉サービスを利用しながら短時間就労でステップアップを行うなど働き方の多様化が進みそうだ。それにともない今後期待したいのは、リワーク支援の充実である。現在、就労移行支援事業所におけるリワーク支援については市町村によって支給決定が認められないケースもあり、地域差がある。制度が整っていけばリワーク支援の充実や「大阪府障がい者委託訓練」のような取組みを拡大させていくことが期待できる(※2)。企業側が安定して障害者雇用に取り組めるよう国の動きにも注目していきたい。※1 当連載第2回(2022年12月号)は当機構ホームページでご覧になれます※2【参考文献】砂川双葉:第27回職業リハビリテーション研究・実践発表会発表論文 「在職障害者の就労支援〜『大阪府障がい者委託訓練(在職者訓練)』から考える職業準備性と企業の雇用管理」 http://www.crossjob.or.jp/common/uploads/2019/12/74f46916171bb385dad530d2d9b75838_f8671fd4ff 3d3bc735b4f47656b7ef9d.pdf働く広場 2023.1砂川双葉(すながわ ふたば)特定非営利活動法人クロスジョブ クロスジョブ堺・副所長。社会福祉士、介護福祉士。2013(平成25)年、特定非営利活動法人クロスジョブに入社。就労支援員としておもに発達障害のある人の支援、障害雇用を行う企業の支援を行う。2021(令和3)年、当機構の第29回職業リハビリテーション研究・実践発表会で、就労移行支援事業所におけるASD者のアセスメントと支援についての実践報告を発表している。19第3回発達障害と就労〜企業の雇用管理力をサポートする(2)〜特定非営利活動法人クロスジョブ クロスジョブ堺 副所長 砂川双葉

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