働く広場2023年4月号
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障がいのある従業員への指導は初めてだったので悩みました」とふり返る。知的障がいのあるお子さんの母親でもあるという渋谷さんは、「自分の子だったらどう教えようかと考えながら、指導に反映させました」という。一人ひとりの特性に合わせ、例えば「部品1個につき、この作業は〇秒で」などと数字でわかりやすく示した。逆に数字や言葉では理解しにくい人には、写真などを用いたマニュアルもある。ていねいな準備と実習を経て万全の体制で臨んでも、いざ始まってみるとトラブルは起きる。渋谷さんがもっとも印象に残っているのが、ある女性従業員だった。 「実習でできていた作業が、あるとき一つのミスをきっかけに、体がフリーズして動けなくなってしまいました。私だけではどうにもできず、小池さんに相談しました。支援機関と家族との三者面談を経て、本人に『安心して仕事をしていいんだよ』と理解してもらうよう、少しずつうながしていきました」このとき小池さんは「とにかく本人とよく話をすること、すぐに答えを出さないこと」を助言。その後2018年に始まったリサイクル部品の洗浄業務を任せたところ、一人で完結する作業だったことも功を奏し、落ち着いて働けるようになったそうだ。渋谷さんは「どの従業員も安定した気持ちで勤務できるように、作業分担や生活面での相談も受けながら、支援機関や家族とも連携しています」と話す。リサイクル課では2020年から「回収現像ユニット」開梱業務も行っている。エスポアールが製造ラインや研究エリアにも入り込んで多様な業務を拡大してきたのは、小池さんの経歴も影響しているようだ。リコーで経理業務にたずさわっていた時期があり、現場を回って業務内容を把握しつつ社内人脈も広げてきた。 「エスポアールができそうな業務はわかっているので、時期を見ながら、同僚たちに声をかけて相談しています」という小池さんは、グループ会社や親会社と話すときは、業務にかかるコストや実績などをわかりやすく示すよう心がけているという。 「この業務内容でこれだけの単価、これだけの損益が出るというふうに、リコー側の仕様に合わせた数字で、全体の損益の理由を断面的に示します。明確な数字をたたき台に課題を共有すれば、具体的な対策や方針も出やすくなります」一方の現場では、指導員が中心となって作業の流れや取り組み方の工夫を重ね、従業員の定着や職域拡大につなげてきた。小池さんは「指導員に求めているのは、仕事上の技量というよりも『彼らの目線に立てるかどうか』で、それが重要です」と話す。いまも新しい業務拡大に向けた準備が進んでいるところだそうだ。「リコーグループの統廃合などで、別部署などにふり分けられる業務のなかに、エスポアールが請け負えるものがあります。少しでも持て余しているような断片的な仕事を集め、一つの業務としてになう方法も検討していきたいですね」という小池さんは、今後についてこう語った。 「リコーグループ全体の業務内容や事業のあり方が変わっていく先に、障がい者雇用がどのように乗っかっていくか、業務のとらえ方も抜本的に切り替えていくべき時期にきていると考えています。親会社と足並みをそろえながら、従業員の持てる能力をより発揮できる職場を目ざして、挑戦し続けていくつもりです」業務拡大を進めるために指導員の渋谷八千宝さんリコー環境事業開発センターでのリサイクル部品洗浄作業の様子(写真提供:リコーエスポアール株式会社)同センターでの梱包工程。製造ラインの一角をになう(写真提供:リコーエスポアール株式会社)      9働く広場 2023.4

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