働く広場2023年4月号
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森下さんがこれまでどのようなステップを歩み、現在どんな仕事をしているのかについて紹介したい。まず、ステップ1は「担当する業務を覚えて一人でできるようになる」とした。森下さんは、通常2週間程度で可能な清掃業務の習得に、約3カ月かかったが、あきらめず粘り強く取り組んだという。ステップ2は「習得した業務を自社で人に教える」である。自社に新しく入社した障がいのあるスタッフや高齢者に、自分が習得した業務を教える。そして最後のステップ3では「自身がジョブコーチとして自社以外で教える」である。森下さんは、自社内で人に教えるという経験を経て、少しずつ自信がついてきた。もともと先生になりたかった思いがあり、人に教えるということにもっとチャレンジしたいと思ったという。森下さんが実際にジョブコーチを担当した事例を紹介したい。障がい者支援事業部の、企業に対して採用から定着までを支援するという取組みに、森下さんも参加した。それは、ある企業で新規に6人の障がいのある人を雇い入れ、清掃チームをつくるというものだった。森下さんは採用前の職場実習の段階から林さんに同行し、林さんが6人のスタッフに清掃業務を教える様子や、かかわり方をそばで見て学んだ。その後の半年間は森下さんが企業へ出向き、ジョブコーチとして6人のスタッフに指導を行った。 「障がい者が障がい者に教えるのは、むずかしいように思うかもしれませんが、当事者である自分だからこそわかることがあります。だから『自分にしかできないことがある』という想いで行っていました。堀江車輌電装の社風でもある『まずはやってみよう!』、そう思うことができました」と森下さんはいう。            半年後、ジョブコーチとしての役目を終え自社に戻るとき、6人のスタッフがお別れ会を開いてくれ、ネクタイを贈ってくれた。スタッフからは「いつも自分たちに寄り添ってくれたので、がんばることができた」といってもらえた。企業側からも「森下さんのおかげで新しい部門がしっかり立ち上がった」との評価ももらえた。林さんも定期的にジョブコーチをしている森下さんの様子を見に行くと、そこには6人のスタッフがモチベーション高く清掃業務に取り組む姿があり、成功していることを実感したという。森下さんは、自分がジョブコーチとして就くことが決まったときから、資格を取得するだけでなく、どんな風に教えたらよいのか、何を伝えたらよいのかを懸命に考えたという。森下さんがジョブコーチとして伝えたこと、それは、「常に人から見られていることを意識して清掃を行うこと」だ。また「汚れにもストーリーがあること」、つまり、清掃をする場所の利用者が、どのような行動をするからどこが汚れやすいのかを想像して、清掃にあたる大切さを伝えた。ごみや汚れと向き合っていると、ときにはネガティブな気持ちになることもある。だからこそ、どうやったら楽しく、モチベーション高く業務ができるだろうかということを考えてかかわった。「6人が活き活き働いていることは非常にうれしいです」と森下さんはいう。 「統合失調症を発症してからは苦しいことも多かったのですが、がんばればここまでできるようになるという経験から、同じ障がいで悩んでいる人にも希望を持ってほしいです。いまでは、自分にしかできないことを発揮し、自分の武器にしようと思うようになりました。この先自分がどこまでいけるのかわからないけれど、努力していきたいです」という。森下さんに今後の夢を聞いた。 「ジョブコーチとしての仕事にもっともっとチャレンジしたいです。いまは清掃業務ですが、次は事務スキルもあげて、事務でも教えられるようになりたいと考仕事の基本は3ステップ森下さんは、清掃業務のみならず、ジョブコーチとしての役割も果たす堀江車輌電装株式会社本社にてお話をうかがった働く広場 2023.424

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