働く広場2023年4月号
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えています」と話してくれた。もう一人、Wさん(36歳)に話をうかがった。Wさんは、仮名で本誌のインタビューに応えてくれた。Wさんは、堀江車輌電装の障がい者雇用第一号として、就労移行支援事業所経由で入社した。当初は事務を希望していたが、その時期にちょうどビルメンテナンス事業部を立ち上げる段階であり、清掃業務を行う人員が足りなかったため、入社後1年くらいは清掃業務に従事したそうだ。その後、事務業務を始めたが、最初は一人分の業務を切り出せず、実習生の面談や飛び込み営業など何でもやったという。「たいへんだと思うこともありましたが、働けることがありがたいと思っていました。いろいろなことにチャレンジするなかで、少しずつ自信もついてきました」とWさんはいう。 「自分は発達障がい(ADHD)で、人よりうまくできないという感覚や、ほかの人と自分が違うという感覚はありました。自分を肯定することができず、どんくさい自分、すぐに大事なことも忘れてしまう自分に戸惑い、不安になることも多くありました。大学を出て、精神保健福祉士を目ざし勉強を始めてから、『もしかして自分自身が発達障がいなのではないか』と気づいたのです。医療機関を受診し、発達障がいとの診断を受け、自分の生きづらさの理由や、常に抱えていた悩みの元がこれだったのかと納得することができました。当事者である自分が精神保健福祉士の資格を取ることや、有資格者として仕事をすることに適性があるのか迷いはありましたが、最後まであきらめず、資格を取得することができました」とWさんは話す。現在の仕事は、障がい者支援事業部での就労支援プログラムの運営で、求職者とのオンライン模擬面接で面接官役を担当したり、リモート実習など訓練の場を提供し運営している。年間約300人の障がい当事者と会っている。林さんは、Wさんについても森下さん同様、3ステップで成長を支援しているという。ステップ1は「自分で担当業務をまわせること」。ステップ2で「実習生に担当業務を教えること」。ステップ3で「実習を主体的に一人でまわすことや面接の指導側にまわること」だ。現在のステップ3に至るまで、林さんの教え方や振る舞いを覚え、見よう見まねで行うことで自信をつけた。Wさんは「いまでも『これでよいのだろうか』と迷うこともありますが、いつもそばで林さんが見ていてくれる安心感があります。いまのところ仕事は続けられているので、自分には合っていると感じています。そしてこれからもやっていけそう、大丈夫だと思っています」と話してくれた。今回のインタビューを通して、林さんが常に二人の存在を認め、フラットな関係性と安心安全な環境を整えていると感じた。また、だからといって決して安定ではなく、わかりやすいステップを提示し、成長実感の持てるような経験の場を提供している。その際、まずは率先垂範で背中を見せてイメージをつかんでもらうものの、細かく指導するのではなく、その人らしさを最大限認め、任せている。だからこそ、森下さん、Wさんが自信を持って業務に取り組むことができるということを感じた。自社の障がい者雇用の充実だけでなく、社会全体の障がい者雇用にかかわる課題に取り組んでいるのが堀江車輌電装だ。インタビューの最後に林さんは伝えてくれた。               「自分自身は、障がい者と健常者の橋渡し役になりたいと思っています。そして、障がい者雇用にかかわる福祉業界・民間企業・教育機関の壁を少しずつ壊し、結びつきを深めながら、だれもが生きやすい社会、だれもがそれぞれに持つ強みを発揮できる社会の実現に貢献したい!」このような熱い志を持つ林さんのこれからのチャレンジが、ますます楽しみである。最後にWさんは、オンライン模擬面接の面接官役も務める障がい者支援事業部で働くWさん働く広場 2023.425

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