働く広場2023年4月号
5/36

て仙骨を折り、次は駅の階段で白杖が人とぶつかり階段をふみ外し、膝の皿を割りました。3回目は点字ブロックがない道で、道路と同系色の車止めにぶつかり大腿骨などを折って3カ月間入院しました。初めて白杖を手にしたときに危険回避法などを学んでおくべきでしたが、当時はそんなリスクも予想していませんでした。白杖を使い始めたのは盲学校2年次、障害者手帳が1級になったころです。知り合いの生徒から白杖が社会福祉法人石川県視覚障害者協会で手に入ると聞き、白杖のほか、単眼鏡やルーペ、拡大読書器を公費の助成を受けて購入しました。逆にいえば、それまで手帳取得の手続きでお世話になった眼科医や役所、盲学校でも教わりませんでした。知っていて当然と思われていたのかもしれません。その後も、自立した日常生活に必要な訓練や相談・助言などを行う「自立訓練(生活訓練)」を知らないまま、独学で、見えにくい生活を営む訓練を続けていきました。このころに、私はこうした中途障害者への「情報障害」を何とかしたいと思いはじめました。そこで2017年、仲間数人とともに、視覚障害者の就労について考え発信する『「あうわ」視覚障害者の働くを考える会』(以下、「あうわ」)を設立しました。まずは知名度を上げるため講演会を開催しました。ちょうど同年にオープンした「神戸市立神戸アイセンター病院」の先生を招き、ロービジョンケアと就労支援について話してもらいました。神戸アイセンター病院は、眼科の研究から社会復帰支援まで一貫して対応する施設として有名です。参加者は百数十人にものぼり大盛況で、私たちの活動にも弾みがつきました。2020年からはラジオ番組「視覚障害ラジオステーション」でパーソナリティーを務めています。広く視覚障害について知ってもらう内容で、専門家の話のほか、視覚障害者の楽団員や、視覚障害者のマラソン並走に取り組む団体などを紹介したりしています。少しでも多くの方に聴いてもらえるよう、放送局の許可を得て、番組をYouTubeでアーカイブ配信しはじめました。その効果として、ラジオ番組内でITサポート事業者が「就労支援もしたい」と話した内容を、YouTubeで視覚障害者の就労支援団体が知り、そこから就労相談会が実現したといううれしい話も出てきています。動画アップなどを手がけてくれたのは「あうわ」事務局長で盲学校出身の辻■嵐■飛■■鳥さんです。彼はもともとITに強く、病院でマッサージ師をしながらIT分野の勉強も続け、副業でホームページ制作などを手がけています。彼は、視覚障害があってもITの仕事を十分にこなせることを示すよいロールモデルになっています。じつは私自身が就労支援について勉強しはじ   ■■       3■■めたころ、盲学校の先輩が紹介してくれたのが、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が制作した冊子『視覚障害者と働く』(※)でした。視覚障害者が従事できる事務から専門業務までを紹介しつつ、職場で必要な配慮や工夫など、就労環境の理想がすべて書かれてありました。「これを石川県で実現すればよいだけだ」と思いました。設立3年目から労働局やハローワーク、障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、県・市、県立盲学校の担当者に呼びかけて年1回の座談会を開催し、課題の共有と解決に向けたディスカッションを行っています。への必要な支援が届きにくい状況を、なんとかしたいと考えています。視覚障害になる疾患は悪化していくケースがほとんどですから、段階ごとの継続的なフォローが必要です。眼科分野に医療リハビリテーションがないことも、医療から福祉や就労の支援(情報・相談・訓練)につながりにくい要因です。さらに私の知るかぎり、石川県内では、あはき以外に視覚障害者専門の職業訓練施設や職場適応援助者(ジョブコーチ)がいないことも課題です。がる支援」の体制整備が求められています。今後も私たち「あうわ」は、社会のみなさんの理解を広げながら「視覚障害者と働く」理想の環境が、全国各地で実現することを目ざしていきます。私たちの現状を理解してもらうため、「あうわ」視覚障害者の7割以上といわれる中途障害者医療から行政、企業も含めて「総合的につな講演会やラジオ番組で理解を広げる「総合的につながる支援」体制を――これまでの「あうわ」の活動について教えてください。――林さんたちが目ざす視覚障害者の働く環境は、どんなものでしょうか。※ 『視覚障害者と働く−理解と配慮で、ともに働く環境づくり−』https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/manual/emp_ls_comic01.html働く広場 2023.4

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る