働く広場2023年5月号
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il私にとって欠かせないコミュニケーション方法のひとつは「手話」です。昨年、映画『コーダあいのうた』や、ドラマ『sした。しかし、昔のろう者は、ろう学校では手話は禁止、聴者文化に合わせるために口話(声を出して話す)で教育を受けてきました。手話が「言語」として認められたのは、2013(平成25)年10月で、鳥取県で全国初の「手話言語条例」が制定されました。認めてもらえるまでかなりの時間がかかりましたが、私自身も「手話は大切な言葉である」と誇りを持っていますし、素直にうれしかったです。現在は、幼稚園、保育園、小学校や、ドラマや映画、SNSなどを通して知ってもらえる機会も増えました。このように、少しずつ環境はよくなりつつありますが、実際にはまだまだだと感じます。例えば、私の連絡手段はメールやLINEが主です。スマートフォンはとても便利になりましたが、ろう者にとっては、まだまだ視覚的情報は少ないように思います。2011年3月11日に東日本大震災が起きent』などで手話が再び注目を浴びまたとき、津波警報が発令されましたが、視覚的情報としての伝達はなかったため、亡くなったろう者の方もいたと聞いています。ろう者には、視覚的情報・情報保障・合理的配慮が必要です。今後も課題はたくさんあるのではないでしょうか。声以外にも筆談、空書き、ボディランゲージ、スマートフォンで文字を打つなど、コミュニケーション手段はいろいろあります。大切なのは「伝える・伝え合う」こと。私は、ろう者としての誇りを持って、手話を大切にしています。そして、ろう者のコミュニティも同じく大切にしたいし、聴者とのかかわりも社会で生きていくうえで必要であり、ろう者と聴者が共存できるような、だれひとり取り残されない社会にしたいと思っています。家族とのコミュニケーションは、手話で話すようにしています。同じ言葉で話していた方がみんなで笑えるし、一緒に楽しめます。そんなふうに、「孤独な人をつくらない」という思いを大切にしています。映画やドラマをきっかけに再び手話がブー             持っていただけるとうれしいですが、「ろう者ムになっているので、少しでも手話に興味をに会う機会がない」という話をよく聞きます。日本では、人口約1億2692万人(※1)に対して、ろう者は約34万人(※2)と推計されています。出会う機会は少ないかもしれませんが、手話サークル、手話講習会、スターバックスのサイニングストアなどに行けば必ず会えます。会ったときは構えないで、臨機応変に対応してもらえたらなと思います。筆談でもいいのですが、せっかくだから「手話はどうやるの?」と遠慮なくどんどん聞いて、少しでも手話を知るよいきっかけにしてください。 「ありがとう」、「お疲れ様でした」、「また会いましょう」など、少しでも手話を楽しんでいただけるとうれしいです。もちろん、※1 総務省統計局「平成28年12月1日現在人口推計」※2 厚生労働省「平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」(調査の時期:平成28年12月)どなたでも喜んで手話で大歓迎します。働く広場 2023.5忍足亜希子(おしだり あきこ) 俳優。1970(昭和45)年生まれ。北海道千歳市出身。銀行勤務を経て、1999(平成11)年、映画『アイ・ラヴ・ユー』で日本最初のろう者主演女優としてデビュー。同作で毎日映画コンクール「スポニチグランプリ新人賞」を受賞。以後、俳優業以外にも講演会や手話教室開催など、多方面で活躍中。 2021(令和3)年には、夫で俳優の三浦剛との共著『我が家は今日もにぎやかです』(アプリスタイル刊)を出版。 忍足亜希子手話で「ありがとう」と話す忍足亜希子さん19第2回エッセイろう者である想い〜手話は言語〜

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