働く広場2023年5月号
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谷千春私が手話通訳士として仕事を始めたのは、いまから40年ほど前になります。当時はまだ「手話」ということばが、社会の中に広まってはいませんでした。初めて会う人に「私は手話通訳士です」といっても必ず聞き返され、やっと通じたかと思えば、「指圧師さんですね」といわれたこともありました。また、テレビで私が手話通訳をしていると、視聴者の方から「画面の隅で小さい男の人が踊っている」という苦情がテレビ局に届いたこともありました。そんな時代を経て、テレビや映画に聴覚障がい者や手話が数多く取り上げられ、街中でも手話で会話をしている人たちをごく普通に見かけられる現在の状況には、時の流れを感じさせられます。最近、おもしろいことがありました。娘のインドネシア人の友人が来日したとき、行きたいところとして真っ先にあげたのは、世田谷区にあるカフェの名前だったそうです。それは昨年日本で放送された、聴覚障がい者の恋愛を描いたテレビドラマのロケ地でした。日本における手話の文化が、外国の地にまで波及していることに驚かされました。ただ、そのような広がりのなかで、社会は聴覚障がい者にとって安心で暮らしやすいものになったかといえば、そうでもありません。例えば、コロナ禍におけるマスクの着用。聞こえない人たちは相手の表情や口の動きを見て話を理解しています。この数年間、多くの聴覚障がい者は、コンビニエンスストアでも駅でもいわれていることがよくわからず、ストレスを感じる日々を送っています。せめて一度マスクを下げて顔を見せたり、筆談をしてくれると助かります。また、聴覚障がい者をサポートする「聴導犬」は、盲導犬と等しく法律に定められた障がい者補助犬であるにもかかわらず、認知度が低く、多くの宿泊施設や飲食店で入店を拒まれるケースを未だに見聞きします。にどのような方法を取ったらよいのでしょうか。もちろん、聴覚障がい者といってもコミュニケーション手段はまちまちです。補聴器を使う人、筆談を利用している人など。前述のドラマでは話したことばを瞬時に文字に変換するという便利なアプリを使うシーンも登場しました。相手にとって一番わかりやすいものを選ぶことが大切ですが、多くの聴覚障がい者にとって、もっとも楽なコミュニケーション手段のひとつは、やはり手話だといわれています。      2時間軸における「前」は同じ語彙です。しかし位置関係としての「前」と、「寝る前」、つまり手話では、前者は手を前に出す動作で、後者は手を後ろに動かす動作ですので、語彙としてはまっでは、聴覚障がい者と話をする場合、具体的例えば、日本語では「コンビニの前」、つまり手話通訳士手話を学んでみませんか働く広場 2023.5★本誌では通常「障害」と表記しますが、谷千春様のご意向により「障がい」としています

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