働く広場2023年5月号
5/36

たく異なるのです。勘違いされがちなことですが、日本語と手話は異なる語彙・文法を持つ言語ですので、聴覚障がい者は文字に書かれた日本語を頭の中で一度手話に翻訳しなければなりません。ですから、私はみなさんにぜひ手話を学んでほしいと思っています。その手話学習に関して二つのアドバイスをさせてください。一つめは「あまりむずかしく考えない」ということです。多くの人は手話をむずかしい言語だと思っています。もちろん、一つの言語を習得するには時間がかかります。しかし視覚言語である手話は、見てわかるという特徴があります。例えば、左腕にはめた腕時計を指さしてください。それは「時間」という手話になります。堅苦しく考えず、まずは身近なものの手話から覚えていきませんか。ちょっとした身振りでも案外通じるものです。アドバイスの二つめは、「手話検定試験にチャレンジしましょう」です。何かを続けるモチベーションを維持するためには、身近な目標があるとよいですね。「手話通訳技能認定試験」という手話通訳士試験もありますが、それは将来のこととして、まずは手話検定を目ざしてみませんか。社会人になっていまさら試験は受けたくないという方のお気持ちは、もちろんわかります。しかし、例えば「手話技能検定6級」でしたら、学習期間は3カ月間、覚える単語は100個だけです。3カ月間、1日1単語覚えるのなら、なんとかなりそうですよね。試験はWebでも受けられますが、ぜひ一度試験会場にお越しください。小学生からシニアの方までいろいろな年齢層の方が手話を学ばれていることが実感できると思います。手話を学ぶことは、障がいのある人たちのた    3けではなく表情豊かにともいわれます。もし、めだけでなく、みなさん自身にも恩恵をもたらしてくれるものです。例えば、手話教室で真っ先に教わるのは「相手の目を見る」、つまり、アイコンタクトの大切さです。視覚言語はきちんと相手を見るということがなければ成立しないのです。次に、手話を表すときには手の動きだあなたが「おいしい」という手話を表しても、表情がともなわなければ相手には「まずい」と受けとめられてしまいます。また日本語ではあまり主語をいいませんが、助詞表現のない手話では「私」や「あなた」などの主語をはっきり伝えます。さらに手話では、遠回しの表現や二重否定はなかなか通じません。相手に伝わりやすい話し方の工夫も必要です。電車に乗るとき、聴覚障がい者は、あなたの隣ではなく向かい側の席に座ります。その方があなたの顔と手がハッキリ見えるからです。ニケーション力、異文化への理解、思いやりの気持ちといったあなた自身の総合力も高められるのです。みなさんの手話学習が全国に約34万人いるという聴覚障がい者を支え、同時に、みなさんご自身の成長と幸福につながっていくことを願って、ペンを置かせていただきます。ありがとうございました。つまり、手話を学べば、結果的に表情、コミュ(たに ちはる) 手話通訳士。NPO手話技能検定協会副理事長。日本社会事業大学講師。 1960(昭和35)年、東京生まれ。高校生のときに手話に出会う。福祉系専門学校を卒業後、東京都手話通訳派遣協会(当時)で手話通訳士としての活動を始める。その後、イギリス手話を学ぶために英国留学。帰国後はフリーの手話通訳士として、NHK手話ニュースキャスター、テレビ手話講座の講師などを務める。また、イギリス手話の技能を活かし、国際会議での手話通訳や、国内における外国人聴覚障がい者の研修講師なども担当する。『手で笑って手で泣いて−手話で社会をつなぐ』(2005年、旬報社)など著書多数。趣味は、落語、ワイン、ヨット。谷 千春働く広場 2023.5

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る