働く広場2023年7月号
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例えば、龍■ちゃんという社員は10年近く寝てばかりいました。ずっとそのままにさせていたら、ある日突然、石鹸のシュリンクフィルム包装を始めたんですよね。急に興味を持って。いまは石鹸の袋入れをやるようになって、1日1200個の石鹸を入れます。龍ちゃんは、11時半になったら勝手にご飯を食べに行くし、みんながご飯に行っている間は一人で作業をしたりとか、自由に働いています。でも長く勤めてもらうと、やる気が出て楽しく仕事をすることもできる。スキルも伸びる。やっぱり続けていかないとむずかしいので。うちの社訓は「今日できることは明日やろう。失敗は他人のせい」。真面目な人が聞くと、怒りますが。気持ちが豊かに大らかになっていないと、しんどいし、仕事が手につかなくなることってありますよね。少し心に余裕を持って働くと、明日につながる仕事になります。働きやすいので、本人も「ここ嫌じゃないよね」となれば、長く仕事ができる。そうすればスキルが上がってちゃんと会社に還元されます。特に軽度の知的障害のある方などは、小さいころからよく失敗して周りから責められて萎縮してる方が多いのです。実道智 ■■習に来てもそうで、失敗しても報告しない。「俺、これもできるよ、これもできるよ」というのですが、実際はそうでもない。そうすると周りから「できない」といわれて、また萎縮してしまい、いづらくなってしまうことが多い。でも、その人のせいにしないで、「これは仕組みが悪いよね」、「このやり方がいけないよね」、「じゃあこうしようか」と話すと、自分のせいじゃないから、「これミスした、ごめん。でも、こうやれば俺、できるかも」と、いえるようになっていきます。ですが、機械でつくった石鹸のバリやごみを取って、チェックして袋に詰め、ラベルを貼るという作業をくみちゃんという社員が30年も続けてきたのに、作業がなかなかむずかしくなってきてしまいました。でも「もう上手にできなくなったから、この石鹸の仕事はできないよね」ではなくて、くみちゃんがつくった石鹸を新商品にしようと考えました。「バリがあるし、ラベルも曲がっているけれどごめんなさいね」と、ちょっと割安価格で。でも石鹸としては同じです。新商品として、買いたいと連絡が来た人だけに直接売っています。道智 「白雪の詩」という石鹸があるのしいことを考えなくてもいいよね」、「ずっと続けられるよね」と、いままでの経験を無駄にせずにすむ。特に自閉症の人は同じ仕事でも、「明日は白衣を着て、向こうの建物で仕事ね」といったり、「石鹸が80gから100gになりました」というだけで、仕事ができなくなってしまう人が多い。ルーティンがあるので。会社としてはそういったところも無駄にしないでいきたいと考えています。もちろんお客さまの理解は必要なのですが。それを発信したら、世の中には、「見てくれが完璧じゃなくてもいいよ、本当は無包装でもいいくらいだよ」などと、いってくれる人もいると思うのです。うちは「この人は何の仕事ならできるかな」と考えます。寝てるだけとか、力仕事だけとか、かなり特殊な人たちが多くて、「じゃあ、生きていくためにはこの人でもできる商材を考えなきゃ」と、その人に合った商材をつくった結果、いまでは120種類もの石鹸があります。なかには全然売れないものもありますが、それをやめてしまうとたずさわっている人の仕事がなくなってしまうので、商品の種類を減らせないのがむずかしいとこ道智 不思議な社訓は【心理的安全性】最先端の実践発想の大転換で新商品が誕生変えることと変えないこと障害のある社員が一つひとつ手づくりする透明石鹸(アートソープ)バリ取りの作業を見学する三鴨委員(左) 30年近く行って覚えた仕事から、「新働く広場 2023.724

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