大学で土木工学を学んだ私は、土木コンサルタントの会社で駅や空港のバリアフリー化にたずさわっていました。しかし、当時はコスト優先で、ユーザー目線とはいえない整備方法に、職場で声をあげても「仕方ない」ですまされることが少なくありませんでした。障害者をめぐる社会のあり方に疑問を抱き始めたころ、旧ヤマト運輸株式会社元代表取締役会長の小■倉■昌■男■さんの本『福祉を変える経営〜障害者の月給一万円からの脱出』(日経BP社)を読み、働く障害者の賃金の低さを初めて知りました。地元の福祉施設等を回っても、やはり聞こえてくるのは「仕方ない」の言葉。「だったら自分が」と脱サラし、重度の知的障害のある女性3人と2003(平成15)年にパン工房を開業しました。パン工房の運営はたいへんでした。焼き損じや売れ残りによる廃棄処分もあり、薄利多売の商売ですから経営は行きづまります。そんなときに異業種交流会で出会ったのが、ショコラティエとして活躍されている野■口■和■男■さんでした。後に教えてもらったのは、チョコレート製品の基本的なつくり方は同じで、そこに素材を混ぜたりコーティングしたりすればバリエーションが無限に広がるということ。なにより、チョコレートは固まっても温めれば何度でもつくり直すことができるのです。私は野口さんの店で修業させてもらい、2014年にチョコレート専門店「QUONチョコレート」をオープンしました。が300人ほどいて、診断はないものの発達障害の悩みのある人が150人近くいます。このほかに子育て中の女性、引きこもり経験者、DV被害者、LGBTQなど、さまざまな事情や背景のある人たちもいます。りましたが、採用においては「本当に働きたいのか」という意欲を重要視します。障害のある人は特性などによって実習を行い、可能な支援も考えます。 ■■ ■■2■■それまで数十社に勤め転職をくり返してきました。職場でトラブルが起きると「自分のせいじゃないか」と思い悩んで辞めてしまうのだと、面接で明かされました。そこで私は「自分を極端に否定しないこと」を条件に採用しました。週1日から始まった勤務は、いまではフルタイムになり、休まず続けています。彼は仕事と職場にうまくマッチしたのだと思いますが、採用後にうまくいかなかったケースも、もちろんあります。従業員約660人のうち、障害のある人先日も地元で求人を出すと70人超の応募があ2年前に応募してきた発達障害のある男性は、土木コンサル業界から脱サラさまざまな背景を持つ人たち――「Q■UON(久遠)チョコレート」事業を始めた経緯を教えてください。夏目 ――全国に広がる57拠点では、いろいろな方たちが働いているそうですね。夏目 一般社団法人ラ・バルカグループ 代表夏目浩次さんなつめ ひろつぐ 1977(昭和52)年、愛知県生まれ。2003(平成15)年、脱サラし愛知県豊橋市にパン工房(花園パン工房ラ・バルカ)開業。2012年、ラ・バルカグループを社団法人化。2014年「QUONチョコレート」事業を立ち上げ、全国57拠点(40店舗)まで拡大。2018年、同法人が「第2回ジャパンSDGsアワード内閣官房長官賞」受賞。2021(令和3)年放送の東海テレビ放送制作のドキュメンタリー番組『チョコレートな人々』が「2021年日本民間放送連盟賞番組部門テレビ教養優秀賞」受賞、映画化され2023年1月から公開。同年、英国フィナンシャルタイムズ「アジア太平洋地域における急成長企業TOP500社」に選定。働く広場 2023.7「チョコレートな人々」が伝えてくれること
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