例えば豊橋市内のラボ(製造拠点)では、就労継続支援B型事業所から来た人や、子育て中の女性らが一緒に働いています。チョコレートづくりの全工程を黙々と1人でこなしたり、ペアを組んで互いに得意な作業をしたり、一見ゆったり進めているように見えますが、ここの売上げは年2億円以上。給料は全員同じで月17万円弱です。2021(令和3)年には、重度の知的障害などがある20人が働く「パウダーラボ」を開設しました。おもな作業は二つで、まずは主力商品のテリーヌに混ぜ込むドライフルーツやナッツ類のカット作業。シートに描かれた規格サイズに合わせ、子ども包丁で刻みます。もう一つは150種におよぶテリーヌの味を決める食材のパウダー化作業です。手で石■臼■を回して挽■いていきます。以前は業者による機械作業でしたが、石臼に変えて味がまろやかになりました。機械を傷めるため廃棄されていた茶葉の茎もパウダー化でき、新たな味になりました。パウダーラボに徒歩30分かけて通勤する、重 ■■ 3介助を受けながら一人暮らしをしています。また、い知的障害とダウン症のある男性は、ヘルパーの重い自閉症のある男性は、最初は落ち着きなく動き回っていましたが、いまでは机に座って包装箱を素早く正確に組み立てています。彼ら20人は「じっと作業し続けるのは無理」といわれながら、1カ月後には全員仕事ができるようになりました。おそらく、自分が必要とされる仕事や役割があり、稼ぐこともできるとわかったからだと思います。あらためて、働くことの大切さを実感しています。ここでは一日5時間働いて月給5万円ほど。愛知県の最低賃金の半分ほどの時給450円なので、時給を引き上げるため商品の付加価値を高める努力中です。ここ数年は「お店を出したい」といわれても、最低1年は断り続けます。運営にかかわる数字やデータを示して事業のたいへんさを説明し、それでもやりたいのかをその間に冷静に考えてもらうのです。同時に私たちも彼らから「どういう思いで何をするのか」をじっくり聞き、「思いの共鳴」が確認できたら、実際にどんな運営ができるかを一緒に考えます。地域に根ざした商売ですから「週3日、数時間だけオープン」といった売り手都合ではなく、純粋にお客さんに通い続けてもらえる店を目ざします。お店を開く人たちの背景はさまざまです。九州にある店は、引きこもりの若者をサポートしている小児科医がオーナーで、名古屋では医療ケアを受ける子どもの親たちが社会参加の場として出店しました。いまは、2年前から粘り強く熱意を示してくれた、ある精神科クリニックの患者3人が慎重に準備を進めているところです。しゃいます。みなさんそれぞれ何かを感じとったような表情で帰られますね。手作業が多い現場を見て「非効率か、そうではないか」と、とらえ方は自由ですが、私は、これまで合理性を追求してきた日本社会が、経済成長の代わりに置き去りにしてしまったモノがたくさんあると思っています。成熟した社会に移っていくためには、いままで「仕方ない」とフタをしてきたモノと向き合い、「多様な寄り添い方をしていく道もあるのではないか」と、一石を投じたいのです。努力した人が報われる社会であるべきです。だからこそ、いろいろな凸凹があっても働くための環境や視点を変えることで、十分に能力を発揮できることを示していきたいのです。そしていずれ多様性や障害者雇用といった言葉が古臭くなり、「そんなのあたり前」と思われるような社会になることが、私の理想です。企業の方は、さまざまな目的で見学にいらっ平等な社会をつくりたいとは思っていません。自分たちのペースで作業「思いの共鳴」を大事にいろいろな凸凹があっても――ドキュメンタリー番組『チョコレートな人々』(※)の反響は大きく、企業の見学者も少なくないそうですね。夏目 ――職場の様子を教えてください。夏目 ――いまも全国各地からフランチャイズ店のオファーが多いそうですね。夏目 ※チョコレートな人々. 東海テレビ放送,2021年3月.(テレビ番組)働く広場 2023.7
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