働く広場2023年8月号
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私は今後、どのように生きたいのか。未来のことはよくわかりません。私は明日のことを考えるのではなく「いま」を大事にして、「いま」どのようにしたいか考えながら生きたいタイプです。もちろん、「いま」を生きながら未来をどのようにして楽しみたいかも考えてはいます。ただ、自分の人生は残り半分、何歳まで生きられるのかはわからないから、「いま」をわくわくしながら楽しみたいです。人生は一度きり、後悔しないように自分の命を大切に有意義に過ごしていきたいです。最近、日本映画やアニメ、コマーシャルにも字幕がつくようになり、日本語を学ぶ外国の方、ろう者、耳が聞こえにくくなった方などが、目で見て楽しめるようになってきました。交通機関では、電光掲示板で運行状況などの情報を知ることができるようになりました。そして、聞こえる方との電話での会話も、手話通訳オペレーターが文字や音声を通訳してテレビ電話で即時に双方向につながることができる「電話リレーサービス」として普及してきています。しかし、マイノリティ(社会的少数者)が抱えている社会問題、生きづらさ、不便さを感じることは、まだまだたくさんあります。さまざまな福祉サービスやユニバーサルデザインなどの普及により、少しずつ、だれもが利用しやすく暮らしやすい社会になっていますが、まだそれらを知らない人も少なくありません。だから、自分に必要なこと、必要なものは、きちんと「必要だ」と伝えよう。そうすれば、社会は少しずつ変えられるはずです。さまざまな人々が分け隔てなく暮らしていけることは、自分のためでもあるし、みんなのためでもあるのです。来日する外国人観光客には外国語、ろう者には手話。コミュニケーション手段ですぐ対応できるように配慮することは必要だと思います。困っている人がいたら、知らないふりをせず、やさしく手を差し伸べよう。ひとりの人間として差別や偏見のない、だれも取り残さない、みんなで協力し合い、支え合い、共存できる社会に変えたいですね。そして、コミュニケーションに関しても、どんな場所でも臨機応変に対応できるようにしていきたいです。社会では、人とのコミュニケーションにおいて、その方法が「人と違うから」と色眼鏡で見るのではなく、違っていても尊重することを大切にし、お互い歩み寄っていく。社会に出て働くようになるのはみんな一緒なのだから、同じ職場にいてもなじめずに、生きづらいと感じていると悲しくなってしまいます。だって、みんな一緒に楽しく仕事がしたい、会話を楽しみたいのです。孤独にさせない、だれも取り残されない環境をつくることは、仕事を通じ、さまざまな個性を持っている方が、自分の好きなこと、やりたいことを心から楽しめるようにするために、とても重要なことだと思います。また、社会で生活するうえで、働く意識を持ち、楽しく過ごせる場をつくることはとても大事なことです。 「個性の尊重」とは、一人ひとりをかけがえのない存在として大切にするということで、相手を敬うこと、自分も相手も尊重する心の姿勢が大切だと思います。だれにでもやさしい社会、平等に暮らしやすい社会、そして、生きづらさや不便さを減らすために、工夫しながら少しずつ、生活しやすい環境をみんなで考え、お互いに協力し合ったり支え合ったりしながら、ともに生きていくことが大切です。ひとりの人間として、俳優の仕事を通して自分の得意分野で仕事ができる喜びを感じながら、新たな出会いに感謝し、芸能界を少しずつ変えて開拓していこうと思っています。ろう者も聴者も一緒に仕事ができるように、ろう者の俳優がたくさん活躍できる場をもっと広げていきたい。また、ろうの子どもたちが自分が持っている可能性を見出し、夢や希望を実現するお手伝いをしたい。そして、だれもが過ごしやすい共生社会にしたいです。そのためにも、俳優の仕事を通して、いろい         ろな場で、たくさん発信していこうと思います。忍足亜希子(おしだり あきこ) 俳優。1970(昭和45)年生まれ。北海道千歳市出身。銀行勤務を経て、1999(平成11)年、映画『アイ・ラヴ・ユー』で日本最初のろう者主演女優としてデビュー。同作で毎日映画コンクール「スポニチグランプリ新人賞」を受賞。以後、俳優業以外にも講演会や手話教室開催など、多方面で活躍中。 2021(令和3)年には、夫で俳優の三浦剛との共著『我が家は今日もにぎやかです』(アプリスタイル刊)を出版。 忍足亜希子働く広場 2023.8最終回19エッセイろう者である想い〜今後の希望と開拓〜

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