日本相談支援専門員協会顧問 福岡寿介護保険の介護支援専門員(ケアマネジャー)と同じように、障害分野にも「相談支援専門員」という職種があり、障害福祉サービスを利用する方に、ケアプランに相当する支援計画(サービス等利用計画・障害児支援利用計画)を作成することとなっています。障害のある方は、相談支援専門員のサービス等利用計画に基づいて、家事援助や身体介護などのホームヘルパーの支援を受けたり、グループホームで暮らしながら仕事をすることができます。相談支援専門員の業務には、こうした計画相談支援のほかに、サービスの有無にかかわらず、障害のあるすべての方たちの相談に応じる基本相談、障害福祉に関する地域の課題解決、連携体制や仕組みづくり、いわゆるソーシャルワークに奔走する仕事もあります。しかし、業務に対する報酬が保障されている計画相談に対して、基本相談やソーシャルワークは自治体の裁量に委ねられています。そのため、地域には計画作成の姿しか見えず、基本相談やソーシャルワークが育っていない地域も多く、地域間格差が激しいのが現状です。みなさんの地域はいかがでしょうか?一方で、年間にどのくらいの相談に応じたかという実績をカウントしていくと、圧倒的に多いのが、診断のつかない〝グレーゾーン〟の方たちです。どの障害種別にもカウントできず、その他の欄に多くのカウントが入るという結果になります。なかでも、圧倒的に数を占めているのは、 発達障害という診断に至らない発達特性のある方たちです。私は、発達特性があっても、その強みを活かして社会で活躍してもらう人生であってほしいと、この仕事を通じて強く願っています。相談で保育園などの現場に出向くことも多い日々ですが、ある晩秋の小春日和の日、園児たちは銀杏の枯れ葉などを集めてお料理ごっこで遊んでいました。その少し、離れたところで一人黙々と、何種類かのふるいを持ってきて、砂や土をふるいにかけて、粗目、パウダーのようなきめの細かい目の山をつくっているA君がいました。園からは、「発達特性があり、気になる子」と聞いていた園児でした。手慣れた保育士は、お友だちのごっこ遊びの輪のなかに無理に誘導しようとはせず、その代わり、「A君、胡椒ペッパーを配達してください」、「A君、ケーキに使うパウダーできましたか?」とA君に活躍の場を用意していました。保育園でのごっこ遊びは、役割分担を決めてチームで働くメンバーシップ型の業務風景に似ています。A君はチーム内で臨機応変に対応することが苦手であっても、チームの業務のうち得意な分野の業務に専念してもらうことで活躍することができます。長年、この仕事にかかわっていると、園児のころに心動いていた興味や関心、活動が、将来大人になったときの仕事や社会参加の武器につながっている事例に出会うことがままあります。できれば発達特性のある子の、その強みを活かして社会参加の武器にと願います。その萌芽は園児のころから見られています。しかし、「なにがなんでも、お友だちと仲よく過ごして」と本人の苦手な環境や場面に追い込んでしまうと、本人のかんしゃくや拒否を強めてしまったり、登園渋りから学齢時の不登校につながったりします。そのため、通常の保育園や学齢時の児童クラブに代わる、児童発達支援や放課後等デイサービスなど、障害児サービスの利用者となり、計画相談をになう相談支援専門員がかかわることになります。とりわけ、放課後等デイサービス事業所の増え方は、全国どこの地域でも顕著です。 本来は、発達障害があっても、相談支援専門員が中心となって、保健師などの行政、療育機関、保育、教育などが連携して、本人とご家族の伴走者になっていただくチームづくりが大切で、そうした取組みがあたり前のように実施できる多職種連携のシステムづくりが重要です。障害福祉サービスにつなげなくとも支えていける基本相談や支援体制づくりをになうソーシャルワークの充実している豊かな相談の土壌づくり、みなさんの地域ではいかがでしょうか。それぞれの相談支援専門員が一人ひとりの支援から、地域のソーシャルワークまでバランスよく活躍してくださっている地域であってほしいと思います。相談員の苦悩と心得働く広場 2023.9福岡寿 (ふくおか ひさし) 金八先生にあこがれて中学校教師になるも、4年で挫折。その後、知的障害者施設指導員、生活支援センター所長、社会福祉法人常務理事を経て、2015(平成27)年退職。田中康夫長野県政のころ、大規模コロニーの地域生活移行の取組みのため、5年間県庁に在籍。 現在は「NPO法人日本相談支援専門員協会」顧問、厚生労働省障害支援区分管理事業検討会座長。 著書に、『施設と地域のあいだで考えた』(ぶどう社)、『相談支援の実践力』(中央法規)、『気になる子の「できる!」を引き出すクラスづくり』(中央法規)などがある。 19エッセイ第1回
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