働く広場2023年9月号
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 「よい商品であっても必ず売れるわけではない」といわれています。販売現場主導型コラボレーションは、どのような市場で、どうすれば、いつ、だれに、何が売れるのか、適切な販売価格、販売方法は何か、などを熟知した販売現場のプロである「売れる商品の目利き」が支援活動に参加し、さまざまなアイデアを吟味して取捨選択・具体的な助言で修正し、「売れる商品」へと導く役割をします。新商品開発支援においては、売れる商品の目利きができる人材はデザイナーや技術者以上に不可欠な存在であり、販売現場と密に連携するコラボレーションを成功させています(※9)(※10)。コラボレーションの効果を最大にするためには、専門家と福祉の現場をつなぐプロジェクトコーディネーターの役割(※11)が重要です。プロジェクトコーディネーターは、コラボレーション活動にかかわる複数の異なる組織や専門家の間のコミュニケーションをサポートするだけでなく、各々が対等の関係になるように、意思決定のルールやフラットな情報共有の仕組みの整備も行います。支援者と福祉の現場に上下関係をつくらないことで、支援を受ける側も受動的にならず、全員の力を最大限発揮することが可能になります。全員が主体感を持てるコラボレーションとは、具体的には「メンバー全員がそれぞれの創造性を発揮できる」コラボレーションです。障害のある利用者も含め、多様なメンバー全員が主体感を持って取り組むためには、例えば、「どの段階でも意見やアイデアを出す機会がある」、「現場で各自が工夫をする余地がある」、「全員の特性やスキルを活かせる」、「自分の行動がプロジェクトに影響を与えていることを感じられる」などのコラボレーションプロセスを整えることが重要です。全員がよりよい変化を生み出すチャンスがあるコラボレーションということでもあります。多様な人材がどのようにコラボレーションすれば長期的によい成果が得られるのかという視点は、社員の多様化が進む一般企業においても重要な課題です。福祉事業の現場で効果的なインクルーシブデザイン・コラボレーションのプロセスと共通する要素も多いのではないでしょうか。販売現場主導型コラボレーションプロジェクトコーディネーターの役割全員に主体感がある=全員が創造性を発揮できるコラボレーション■■■■池田 千登勢(いけだ ちとせ)    見楽■■神3働く広場 2023.9 東洋大学福祉社会デザイン学部人間環境デザイン学科教授。博士(芸術工学)。 プロダクトデザイナーとしてNECグループの情報機器の先行開発を担当。ロンドン大学にて経営学修士(MBA)取得後、情報機器のアクセシビリティー推進、JIS X 8341制定にたずさわる。2006(平成18)年より東洋大学専任教員。プロダクトデザイン・ユニバーサルデザインを専門とする。おもな研究テーマは障害者就労継続支援B型事業所の授産製品のデザイン開発支援手法と実践、認知症患者を対象とした色彩を用いたアートセラピー手法など。著書に『インクルーシブデザイン・コラボレーションの可能性−就労継続支援B型事業所の商品開発支援のあり方−』(風間書房、2022年)。※1   島根県 ワークくわの木金城第2事業所:石面・衣装※2   滋賀県 やまなみ工房:アート作品・アート作品のデザイン※3   東京都 クラフト工房La Mano :手染めの鯉のぼり※4   北海道 北海道産授産製品磨き上げ支援事業:複数の事業所※5   東京都 KURUMIRU−自主製品魅力発信プロジェクト−:教えない・指示しない・自ら考えさせる 徹底したアクティブラーニング型支援の実践※6   沖縄県 そてつの森(ドロップス):自閉症の人のこだわりと集中力を活かした微細な透明樹脂盛り技術で実現した複雑な形状のドロップスステッカー※7   埼玉県 すいーつばたけ:廃棄していた色塗り作業の下敷き※8   神奈川県 横浜光センター:治具を開発し、中心を合わせてフェルトボールを積み重ねられるようにして制作しているディフューザー※9   equaltoプロジェクト:アッシュコンセプトが運営するプロダクトデザインショップKONCENTとの連携で売れる商品づくりに成功※10  愛媛県 障がい者授産製品ブラッシュアップ事業:販売戦略※11  テミルプロジェクト・equaltoプロジェクトにおけるNPOを活かした商品同士で学び合い大きな成果木材を活用したカラフルなアニマルブローチを軸に商品のブランド化を実施して成功法人ディーセントワーク・ラボの役割

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