は、「障害のある人と一緒に働くのは初めてでした。工場長として赴任して1年が経ちましたが、喜びも2倍、悲しみも2倍です」という。こんなエピソードを語ってくれた。 「1月のある日、神戸市内に大雪警報が出ました。幸い都市交通は止まらなかったのですが、六甲ライナーの駅から歩いて工場に向かっていたら、歩道上に車いすのわだちがありました。工場の門扉を開ける大脇さんには、﹃明日警報が出るかもしれないのでゆっくり出勤しなさい﹄といったのに、いつもより早く出勤していたんです。あらためて大脇さんの人としての魅力、責任感の強さと誠実さを痛感しました」また、大西さんは、「障害のある人と接してきて、雇用はチャリティではなく、企業としてどう続けていくかが重要だと考えています。これからも17人の従業員が何らかの形で生産にかかわることを大切にしていきたい」と語ってくれた。ナリスコスメティックフロンティアで われている。なかでも、生産参観に着目は雇用後の定着支援の取組みとして、製品開発、マザー工場見学、生産参観が行した。生産参観とは、障害のある従業員のご家族を工場に招待して、働く現場を参観してもらったり、従業員とご家族が懇談したりする機会だ。障害療育の現場で働いてきた経験から、この取組みはとても重要だと感じた。障害のある子どもを育てる多くの親は、「親亡き後のわが子の生活」に不安を抱いている。ナリスコスメティックフロンティアの「生産参観」は従業員の授業参観ともいえるが、わが子が「働く」現場を観ることは、家庭では見られないわが子の発見である。その姿は、なにより安心につながる。当事者からすると、家族の安心感が自身の働くことの自信や意欲にも影響すると推測される。「定着支援」は、障害当事者と会社間のみの取組みだけではなく、家族の理解と協力も不可欠だと考える。大西さんの話が終わった後に、今回の取材先を紹介してくれた、武庫川女子大学薬学部健康生命薬科学科客員教授で、日本介護美容セラピスト協会顧問でもある谷都美子さんによるビューティタッチセラピーが、従業員の大脇さんに行われた。介護美容については31ページのミニコラム「編集委員のひとこと」でも触れるが、今回はハンドセラピーの一部を行ってもらった。手にクリームを塗ってもらい、肩、肘、腕、手とゆっくりもみほぐしていく。大脇さんに感想を聞くと、「マッサージとは違った体験でした。手の緊張が少しずつ和らぎ、気持ちも楽になりました」とのこと。谷さんからは、「高齢者や障害のある人の介護のなかに、介護美容という新たなアプローチを始めました。その道具として化粧品の役割も広がるのでは」と貴重なコメントをいただいた。今回の取材のメインテーマ「前回のインタビューに応じてくれた5人の従業員たちは、この間、どのように働いてきたか、さらに、どうして続けてこられたのか」について、インタビューメモを読み返すと、5人に共通するキーワードは「理解」、「個性」、「適性」、「経験」、「働くことが好き、楽しい」、「安心」、「責任」だ。これらは5人の従業員の言葉として表現されたものだが、その背景には、創業者の想い「化粧品づくりを通して就労の機会を増やし、お金を稼いで自立した生活を送ってほしい」ということ、さらに、その想いを具体化したCredo見事に反映されている。今回の取材で、企業の運営は、①Concept/創業者の想い、②行動指針、③人づくり/人材育成で成り立っていることをあらためて認識することができた。この三つのキーワード、ナリスコスメティックフロンティアの歩み、従業員の声が、読者のみなさんにとって何かの参考になれば幸いである。/行動指針がまとめ谷都美子さんによるビューティタッチセラピーの様子。コミュニケーションを取りながら施術を行う従業員の家族が職場を見学する「生産参観」の様子(★)源さん(左)はアビリンピックの「製品パッキング」にも(★の写真提供:株式会社ナリスコスメティックフロンティア)挑戦している(★)働く広場 2023.1025
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