顔と名前をシートで覚えるいこと、社会性やコミュニケーションに困難があるということがわかった。また、職場のCADが自宅のものとは異なる仕様だったことからうまく操作できず、「本人は初めて挫折を感じたようでした」と渡辺さん。その後しばらくして、本人と親御さんから「もっと勉強が必要でした。また実習をさせてほしいです」と直接連絡があったそうだ。そして、計3回の実習を経て採用に至ったのは、学校側の支援も大きかったと渡辺さんが明かす。 「職場実習がスムーズに実施できるよう、担任の先生が学内の調整をしてくれました」入社後は1日6時間のパートタイム勤務から始まったが、すぐに職場内外での言葉づかいなどがトラブルになった。渡辺さんは、徳島県発達障がい者総合支援センターに相談し、本人にソーシャルスキルトレーニングを受けてもらったり、「会社の制服を着ている間は、だれに対しても敬語を使う」ことをルール化したりして、対人スキルの向上につなげたそうだ。本人と周囲の努力が実り、2021年2月には正社員になった。登用試験には目標シート作成や読書感想文、社長面接などがあるという。 「いまもできることとできないことに大きな差があります。感情に波があり、集原わ侑ゆ子こさんだ。南な支援学校在学時の職場実習に参加し、中力も途切れがちなので、つねに周囲が見守っていますが、彼はCAD操作がなによりも好きで、好きな仕事への執着が強み。彼を理解し、指導してくれる居場所があるのも大きいと思います」と渡辺さん。ほかにも障碍のある従業員の働く現場を見せてもらった。案内役は、昨年から障碍者雇用に関する業務を渡辺さんから引き継いでいる総務部総務課労務係の藤ふ本社工場内の一角。大きな機械の前でポリケースを抱えていたのは、製造部製品管理課製品管理係に所属する入社6年目の住す友と郁ふ也やさん(24歳)だ。担当していたのは、各部署でつくられた多種多様なナット類をポリケースから機械に移し入れて自動的に袋詰めし、空かのポリケースをまとめて前工程に送り返す段取りまでだ。住友さんは徳島県立阿あ「力仕事が得意なので、自分に合っていると思いました」という。一方、上司である製造部製品管理課製品管理係係長の田た中な一か生きさんは、配属前に渡辺さんたちから、住友さんの苦手なことをいくつか伝えられていた。かず んら みもみ らうじ 「例えば、長い表現の言葉は理解しにくいので、なるべく要点をしぼって短い言葉で伝えるようにしました」なかでも大きな課題は「人の顔を覚えにくい」ことだった。渡辺さんによると「小中高を一緒に過ごした友達は1人も覚えていませんが、漫画の主人公など2次元の情報は記憶しているという特性がありました」という。仕事でもだれに指示されたのか、だれに聞くべきなのかわからなくなる。そこで渡辺さんたちは住友さんに、職場で一緒に働く上司や同僚の「顔写真と名前」がセットになったシートを渡した。さらに活用したのが「ありがとうカード」。以前から職場では、だれかにやってもらったことやよかったことを、感謝の言葉で伝えるカードを書いている。 「住友さんも毎日シートを見ながらカードを書くことで、半年ぐらいかけて徐々に顔と名前を覚えていきました。彼から話しかけてくれるようになったのも、顔を覚えた効果だと思います」と田中さんはいう。一方で、住友さんの強みは「折り紙がプロ級の腕前」といわれるほど手先が器用なことだ。はんだごてを使った修理や箱の組立て、梱包時の計量など細かい作業を任せられ、いまでは「なくてはならない存在」になっている。働く広場 2023.11住友さんの指導にあたる製造部製品管理課係長の田中一生さん製品管理の作業をする住友さん製造部製品管理課で働く住友郁也さん11
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