働く広場2023年11月号
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――初めての国際大会は、いかがでしたか。中川――国際アビリンピックを経験し、どのようなことを感じましたか。中川 回全国アビリンピック(沖縄県)は、これまでの長年の努力が出し切れた結果の金賞だったと思います。第10回国際アビリンピック派遣選手選考会を兼ねた2020年の第40回全国アビリンピック(愛知県)に招へい選手として出場し、念願の日本代表に決まったときは「15年越しの夢が叶った」と、感無量でした。選考会後、コロナ禍で第10回国際アビリンピックは延期が続き、いったんは国際情勢により中止となりましたが、最終的に私自身初めての欧州行きが決まり、モチベーションが上がりました。今回の競技課題は、上じ顎が蝋ろ総そ義ぎ歯し製作(4時間)と上顎右側1、2番2本のワックスアップ(2時間)でした。選手はフランス・韓国・日本から出場していて、国際審査員もこの3カ国の方々でした。国によって歯科技工の考え方が違うため、私はインターネットで他国の歯科技工所や技工物を調べ、どんなつくり方や仕上げ方、表現方法をしているかなどを研究しました。準備万端のつもりでしたが、現地では思わぬハプニングもありました。まずホテルの部屋でさっそく練習しようとしたら、日本から持参した機器が、フランスでは変圧器がないと使えないことがわかったのです。日本選手団に国際審査員として同行されていた伊い集じ院い正ま俊と先生が、メッス市内を探しまわり変圧器を見つけてくれました。また競技前日の説明会では、競技の事前説明とは異なり、3Dプリンターでつくられた歯列模型にワックスアップをすることを初めて知ったほか、日本で使われていない材料や咬合器が用意されていたりして驚きました。国内大会では考えられない変更ですが、他国の選手たちは「よくあること」と思っていたかもしれません。そういう意味では大会前の練習会で、伊集院先生からの「臨機応変に対応すること」というアドバイスが大きな力になりました。じつは競技中もワックスペンを温める機械が故障するトラブルに見舞われましたが、出国前に田川さんが貸ょうゅうしてくれた予備機で救われました。本当に、みなさんの支えあっての金賞だったと思います。の壁を越えたコミュニケーションを図ることができました。同じ聴覚障害のある人たちの豊かな表情が、周囲を楽しい雰囲気にしているのを見て、私も自然と笑顔になっていたのを思い出します。すばらしい人間性を持った異国の選手たちとの出会いをはじめ、ハプニングも含めて、日常では得がたい体験をさせてもらいました。賞までの道のりは、とても険しいものでした。生まれつき重い聴覚障害のある者は、言語習得の壁はもちろん、情報格差も大きいと痛感することが少なくありませんでした。でも同時に、個々の努力は必ず報われることもわかりました。    しんさ  くうう4なく人間性を磨くことも大切だということを実感しています。歯科技工士という仕事には、ものづくりの楽しさと、人の役に立てる喜びがあります。そして日々、ユーザーのことを考えながら調和する歯を目ざす姿勢こそが、さらなる技術の向上につながっていくと思っています。手話によって、いろいろな国の人と言葉ふり返ると、私自身の国際アビリンピック金いまあらためて、歯科技工士は、技術だけでハプニング続きの国際大会技術だけでなく人間性も働く広場 2023.11友人や同僚らの寄せ書きとともに国際アビリンピックに臨んだ

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