日本相談支援専門員協会顧問 福岡寿 「相談支援専門員は障害のある方の伴走者として…」とはいっても、障害そのものもさまざまです。一人の相談支援専門員が統合失調症から自閉症、難病、高次脳機能障害、あるいは医療的ケアなど、多種多様な障害それぞれに詳しいわけではありません。そんなスーパーマンのような人はいません。そのため、ご本人と会い、さまざまな生活の様子や、そこにともなう困りごとなどを聴きとる「一次アセスメント」のほかに、その方の障害特性に詳しい専門家からの聴き取りとなる「二次アセスメント」も欠かせません。相談支援専門員はどれだけ多くの障害に精通し、他職種の方とつながれているかが、業務を進めていくうえで大切な資質です。一つの事例をご紹介します。とても人当たりがよく会話も弾む方なのに、「仕事が長続きしない」という相談者がいました。ハローワークで紹介を受け、採用が決まり、「よかったな」と思う間もなく、しばらくすると「離職しました」という報告とともに相談に来られた方でした。離職といっても、職場からの解雇もあれば、自ら退職を申し出ることもあり、職種もさまざまで、職場も二十数件を超えていました。就職期間も、半年間続いた職場もありましたが、多くは、数週間から数カ月間程度でした。離職の理由としても、気力低下であったり、自信喪失、欠勤・遅刻、体力不足など、その都度一様ではなく、もし自分が職場の採用にあたる面接官なら「即、採用」と即決したいほどにコミュニケーション能力のある方だったので、「なぜ長続きしないんだろう」とその背景を探りかねていました。そこで、心理士に二次アセスメントとして心理検査をお願いしました。受けられた検査は、成人向けのWウAェIイSス(成人の知能を測定するための個別検査法)検査のほかに四種類ほどでした。心理士からは、言語理解やコミュニケーション能力は非常に高い方だが、全体を見すえつつ、部分にも着目し適切な行動につなげていくという統合が苦手なため、細部にこだわりすぎて仕事が停滞したり、優先的に取り組むべき重要な業務を後回しにしてしまう傾向があるのではないか、と教えていただきました。そこから、高いコミュニケーション能力が評価され、面接を経て就職を果たすも、仕事に慣れてきたころに、より重要であったり、煩雑な業務が課されてくると負担になってくるのではないか、と推察しました。その後、職場ではご本人に業務を課す際、 業務を「急ぐ・急がない」、「重要・軽微」と分けることにしました。重要で急ぐ業務は上司とペアで業務にあたり、失敗経験につなげない、軽微で急ぐ業務はリスト化し一つ終えるごとに斜線で消し、達成感を得ていく、などの配慮がなされるようになりました。 「福岡さんもWAISの検査を受けてみますか」と職場の同僚である心理職から誘われ、こわごわ受けてみました。「言語性のIQは高いが、動作性のIQは低い」という結果でした。特に、絵画完成や積木模様などの問題はほとんど完成できず、苦手なことがわかりました。これまで、人に何かを教えたり、一緒に考えたりするなど、言語性IQでこなせる仕事が多く、結果として職場で不適応にはならず、何とかやってこれたことに胸をなでおろしました。ちなみに、私の末娘が心理職として産業カウンセリングなどの現場で働いていますが、夏に帰省したときに、「お父さん、ロールシャッハテスト〈インクの染みで作成された左右対称の図版が何に見えるかで、その人の考え方や心のありようをとらえる性格検査〉やってあげる」と誘ってきましたが、「娘に自分の心の底を知られては」と思い、即、断ることにしました。相談員の苦悩と心得福岡寿 (ふくおか ひさし) 金八先生にあこがれて中学校教師になるも、4年で挫折。その後、知的障害者施設指導員、生活支援センター所長、社会福祉法人常務理事を経て、2015(平成27)年退職。田中康夫長野県政のころ、大規模コロニーの地域生活移行の取組みのため、5年間県庁に在籍。 現在は「NPO法人日本相談支援専門員協会」顧問、厚生労働省障害支援区分管理事業検討会座長。 著書に、『施設と地域のあいだで考えた』(ぶどう社)、『相談支援の実践力』(中央法規)、『気になる子の「できる!」を引き出すクラスづくり』(中央法規)などがある。働く広場 2023.12エッセイ第4回19
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