について伝え、どこがズレたのか(例:報告の優先度)を確認することができるでしょう。相手も自分なりに考えて行動したことに対して、一方的に「そうではない」と否定されてしまうと、次から自分で考えて行動することに意欲が持てなくなります。もし、相手がルールを知らなかったり、わからなかったりした場合には、相手がルールを理解できるように伝えることが重要です。例えば、「赤信号はわたる」だと勘違いしていた人がいたときに「それは間違っている!」と怒っても(命の危険がある場合に大声を出して動きを止めることは必要ですが)、その人のなかでは「赤信号はわたる」という認識をしていたわけですから、理解と行動は一致しています。「そう思っていたのならわたりますね。でも赤信号は〝とまれ〟のサインですよ」と相手の認識を受け入れた後にルールを伝えたらよいのです。ときには自分では想定しないような考え方をしている人もいるでしょう。そうしたときこそ、なぜそうした考えになるのかをていねいに聴くことが大切です。日常生活において、自分の考えが「正しい」と信じていなければ行動が困難になりますので、そう思うこと自体は自然なことです。だからこそ、人とかかわるときには気をつけなければなりません。立場が異なる人とかかわる際には、よりそのことを注意する必要があります。また、上司、指導者、相談員など「教える」、「指示する」といった役割をになっていると、「正しいことを教えなければ」という気負いが加わり、さらに自分の考えが正しく、それを相手に伝えなければいけないという思いが強くなります。しかし、先述したように相手の考えや判断を聴かずに、自分が「正しい」と思っていることを一方的に伝えようとすれば、相手の意欲を削ぐだけでなく、どこがズレているかを明らかにすることができず、適切な修正もできなくなってしまいます。そして自分が相手の考えや判断を誤って認識 3せんが、意外とこれがむずかしい方も多いといしてしまうことや、自分の考えよりも相手の考えの方が場に適していることに後から気づくときなどがあります。そうしたときに、素直に間違いを認め、謝罪をすることが大切です。そんなことはあたり前だと思う方が多いかもしれまう印象です。特に立場が上にある人の場合、立場が下の人に対して間違いを認めることへの抵抗感が強くなります。それはきっと立場上「間違えてはいけない」、「威厳を保たなければならない」といったプレッシャーがあるのでしょう。しかし、間違えない人はいません。それはどの立場であっても同じことです。どのような立場であっても、間違えたときには率直に謝り、その責任を自分に置くことを明示することは、人と人との信頼関係においては非常に重要です。 「クライアントとかかわる際に大切にしていること」という書き出しをしましたが、結局のところ、人とかかわる際に大切にしていることと同じです。お互いの違いを尊重し、ズレについて話し合うことが、クライアントの障害理解にもつながっていくでしょう。(はまうち あやの) 大阪・京都こころの発達研究所 葉 代表。京都光華女子大学健康科学部准教授。臨床心理士・公認心理師・社会福祉士・精神保健福祉士。兵庫教育大学大学院修士課程修了後、教育センターや発達障害者支援センター、精神科医療機関などで勤務。2018(平成30)年9月に「大阪・京都こころの発達研究所 葉」を立ち上げ、クライアントへのカウンセリングや心理検査、企業や医療・福祉機関への研修、専門職へのスーパーヴィジョンなどを行っている。 著書に『発達障害に関わる人が知っておきたいサービスの基本と利用のしかた』(2021年)、『発達障害に関わる人が知っておきたい「相談援助」のコツがわかる本』(2022年)、『精神科の受診や特徴までがわかる 発達障害・メンタル不調などに気づいたときに読む本』(2022年、すべてソシム刊)がある。浜内 彩乃働く広場 2023.12
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