苦い経験も大会に出場したり、社内の書道部で苦手な漢字を練習したりするのが楽しいそうだ。2年後の2018年に、三浦さんと同じ学校出身の大お谷た尊た亨ゆさん(34歳)が加わった。大谷さんは、益田市内の公園などを運営する会社で草刈り業務などに9年間従事していたそうだが、結婚を機に引っ越した先が職場から遠くなったため退職。エスポアの紹介で、自宅からほど近いキューサイファームで実習を受け入社した。実習時から三浦さんに手順などを教わり、いまでは毎日一緒に業務を進めている。「毎朝、その日の仕事の段取りを2人で話し合い、判断に迷うときは業務課のみなさんにも相談しています」休憩時間などにほかの従業員と話すなかで、自分と同じカメラ撮影が趣味という人ともめぐり合った。「誘ってもらって自分も鉄道撮影をするようになりました。風景や家族の撮影も楽しんでいます」という大谷さんは、「家族のために一生懸命がんばって働きます。将来の夢はマイホームを持つことです」という。三浦さんや大谷さんの指導係を務めているのが、業務課の経理担当で障害者職業生活相談員でもある橋は本も美み少さ代よさん。三浦さんたちと一緒に朝礼を行い業務内しと おにかき 容の確認などを行っているそうだ。 「2人が作業で困ったときはいつでも声をかけてもらっていますが、私が不在のときはほかの社員にも気軽に相談してくれています。私だけが対応していると誤解が生じることもあるでしょうし、1対1にならないよう業務課全体で声をかけ合って支え合っています」キューサイファームではこれまで1人だけ、定着できずに退職してしまった障害のある男性がいたという。四橋さんは「職場環境とは関係のない、私たちの支援が届かないところで辞めざるを得なくなったのが残念です」と悔やむ。その男性はエスポアの紹介で入社し、順調に働き始めたものの、しばらくすると無精ひげを剃らずに乱れた服装で出勤したり、遅刻や欠勤が増えてきたりした。本人に確認すると、スマートフォンやタブレット端末で動画視聴やゲームに没頭してしまい、寝不足になっていたようだった。「問題はさらに深刻化しました」と四橋さん。 「端末の支払い金額がふくれ上がっていました。金銭管理をしていたエスポアがすぐに解約したのですが、また別の通信会社で契約していました」結果として今度は100万円超の請求書が届き、エスポアと相談して再び就業前の生活支援からやり直すことになったという。四橋さんは厳しい口調で話す。 「社会的自立を支援するために、障害者雇用をする会社や支援機関が環境を整えても、社会そのものに、彼らの弱みにつけ込むような契約などを可能にするシステムがあるのは疑問です。プライベートは考慮すべきですが、生活に影響する部分は、もっと社会全体で防ぐ仕組みが必要ではないかと思います」キューサイファームでは、苦い経験をくり返さないためにも、職場では日ごろから声かけやコミュニケーションを通して本人の変化を早めに察知することに努めているという。そのうえで、今後の方針について四橋さんは、「従業員にとって、少しでも安心して働きがいのある職場環境を目ざしたいと思っています。地方の農業分野は、給与も最低賃金の上昇に合わせるのが精いっぱいですが、現場に欠かせない戦力として、独自の雇用制度も含めたキャリアアップの道筋も検討していきたいと考えています」と前向きに語ってくれた。株式会社キューサイファーム島根本社工場大谷さんは、ブラインドの清掃を行っていた本社工場で働く大谷尊亨さん働く広場 2024.111
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