■■村■裕■博士は「自宅で寝たきりであっても、頭に出向してみてはどうか」とすすめられ、これも縁だと思って、本社のある大分県に赴任しました。――IT関連事業を展開する三菱商事太陽では、早くから在宅勤務も進めてきたそうですね。福元 「社会福祉法人太陽の家」創設者であり、三菱商事太陽の初代社長も務めた故・中■がしっかりしていればプログラマーとして稼げる」と話していたそうです。三菱商事太陽はまさにその通りの道を進んできました。三菱商事から委託されたシステム開発業務をメインに、地元官公庁のシステム関連業務へも拡大するなか、2014年には「在宅勤務制度」を導入しました。当時は、何かあればすぐに駆けつけられるよう、三菱商事太陽本社のある大分県の在住者を中心に、通勤困難な身体障がいのある4人を採用し、データ入力業務を担当してもらいました。その後まもなく、新たな人材確保の必要に迫られました。というのも三菱商事で新しい社内システムの導入が決まり、土台となる専用ソフトウェアを使いこなせるシステムエンジニア(SE)が必要になったのです。しかし大分県内で求人を出してもまったく応募が来ませんでした。そこで私たちが目を向けたのは、全国各地にいるであろう「ITスキルを持ちながら在宅勤務を希望する人たち」でした。身体的な障がいにかぎらず、出勤によって生じるさまざまな課題(人とのかかわりや周囲の雑音など)を持つ人たちです。そうして2018年に始めたのが、完全在宅勤務を前提にしたIT技術者養成事業です。ソフトウェア会社が提供するeラーニングの受講費用十数万円を三菱商事太陽が負担し、必要なスキルを在宅で習得してもらいます。参加条件は、①障害者手帳を持っている、②自宅にパソコンがありインターネット環境が整っている、③すでに一定のプログラムスキルを保有している、④三菱商事太陽で週20時間以上働けること。インターネットで募ったところ全国から20代〜50代の35人が集まりました。書類審査などを経て自宅でeラーニングを履修後、三菱商事太陽の実習課題をクリアした7人を1期生として採用しました。――IT技術者養成は、他企業あっせん事業にも拡大したそうですね。福元 る企業にも声をかけ、2019(令和元)年秋に4社合同の集団面接会を開催しました。eラーニングの修了認定を取った6人がオン2期目は同様のIT技術者を求めていは「就労状況をきちんと確認できないのでは」、「何かあっても遠方では対応できないかもし 3■■ ラインで参加し、企業側は会議室に集まって一緒に質問をする形です。他社の採用担当者は「何をどこまで聞いてよいのか」と戸惑っていたので、精神保健福祉士などの資格を持つ私が代わりに聞きました。面接を受ける人たちも、各社の同じような質問に何度も答える必要がないというメリットがありましたね。しかし結局ほかの企業は1人も採用せず、三菱商事太陽が全員採用しました。コロナ禍を機にテレワークが進んだにもかかわらず、障がい者雇用になるとしり込みする理由はなんでしょうか。担当者たちから聞かれたのれない」といった不安の声でした。三菱商事太陽では、最終的な採用前に「就労環境」と「就労準備性」の確認をします。本人の自宅や就労移行支援事業所、かかりつけのクリニックも訪問し、何かトラブルが起きたときのセーフティネットがどれだけ整っているかを判断します。部屋の明るさや広さ、災害時の安全確保はもちろん、実際に支援する人に会って、どれだけ親身で温かいつながりがあるかも確認しました。本人が支援機関をフル活用し、信頼関係をつくっておくことは大事なポイントです。仮に就労環境や就労準備性が十分でないと判断されたときは、クリアできるような支援や工夫を考えます。こIT技術者の養成事業在宅勤務者の支援体制働く広場 2024.1
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