働く広場2024年3月号
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〜障害、仕事、支援の捉え方の転換〜諸外国における障害者就労支援の近年の動向わが国の障害者就労支援は最近の数十年で大きく発展し、それまで一般就業が困難であった多くの障害者の就労可能性が拡大しています。その一方で、障害者手帳を所持していないが就労支援を必要とする精神障害・発達障害者、難病患者等への対応、障害者雇用の量的増加だけでなく障害者の労働の権利や持続的な企業経営等を含む障害者雇用の質の向上、さらに、医療・福祉・教育等の関係分野との密接な連携を含む高度な支援のための地域支援体制の構築や専門人材の育成等の今後の課題も山積しています。このようなわが国が抱える課題について諸外国の対応を調査したところ、以下に示すように、諸外国でも共通点が多いことが明らかになり、各国での知見やノウハウの蓄積や国際的な情報共有の進展による一定の動向を確認できました。障害者就労支援は、障害や疾病等にかかわらず誰もが仕事で活躍しやすい職場づくりや社会づくりの取組みとして大きく転換する動向にあり、障害者職業総合センター研究部門 新たな取組みが発展しています。諸外国の法定障害者雇用率は、ドイツで5%、フランスで6%、アメリカで連邦政府と契約する企業に求められる雇用目標が7%と高い水準に設定されています。これは「障害者」を福祉制度の対象範囲よりも幅広く捉え、就労支援の対象としていることも一因です。障害を人間の多様性の一つとして捉え、障害や疾病、失調等の存在やその程度にかかわらず、すべての人の人権や社会参加の保障を重視する考え方は、障害者権利条約にも沿ったものです(図1)。これを単なる理念に止めない現実的な取組み  3   2としては、まず、知的障害、精神障害、重複障害等の従来は最も一般就業が困難と考えられてきた障害者に対する効果的な就労支援のあり方(個別的に活躍できる仕事へのマッチングや職場の合理的配慮の確保、就職後の医療や生活面も含めた継続的な地域支援等)の明確化と普及があります。また、より軽度の障害で福祉制度社会的支援部門の対象でなかったり、障害者差別等をおそれて合理的配慮が必要でも職場に開示していなかったりして、就労困難性を経験している人たちを支援対象とすることが重視されています。そして、アメリカやドイツでは、多様な障害や疾病について詳細な合理的配慮や専門支援の情報提供や支援が行われています。さらに、「障害者」の一般的認識について、「仕事で活躍するために、社会的バリアの除去や理解や個別調整等が必要な人たちであり、理解や個別調整等があれば活躍できる」ことについて積極的な啓発が進められています。企業経営の観点から、誰もが個性を尊重され1 はじめに幅広い「障害者」の労働の権利の保障誰もが働きやすい企業経営や雇用管理(注:国連障害者権利委員会の2022年の「障害者の労働と雇用の権利に関する一般的意見第8号」第2章における、障害者権利条約に適合した障害の捉え方としての障害の人権アプローチを、能力主義的アプローチと対比させる考え方の図示。「調査研究報告書No.169」第Ⅰ部第3章第2節(p.80)参照。能力主義の定義はCrispino等, 2020。図はInteraction Institute for Social Change|Artist: Angus Maguireのオリジナルのオンラインでの改変版の一つ。)図1 障害者権利条約の人権アプローチに基づく障害の捉え方(注)28

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