働く広場2024年3月号
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能力を発揮できる職場づくりが重視される社会的動向をふまえ、障害者雇用を優秀な人材確保の手段として、合理的配慮提供を生産性向上のための業務として位置づける動向があります。例えば、世界的な企業でニューロ・ダイバーシティという取組みが企業の競争力向上のために重視され成果を上げています。これは、高学歴で能力が高いにもかかわらず発達障害の特性のために就職が困難な人たちを採用するために業務上必要な人材の定義を見直し、活躍してもらいやすい柔軟な個別調整を行うものです。また、アメリカでは、持続的な企業経営のあり方として、基本的枠組み(表)や「DEI(障害公正指標)」がつくられ、多くの企業が毎年自己評価するとともに、ほかの企業との比較による業務改善のためのベンチマークにもなっています。また、イギリスでは、国が主導して「障害に自信のある」企業という取組みとして、初心者企業、進んだ企業、他の企業を指導できるリーダー企業の三つのレベルに分けて企業の取組みの底上げとさらなる発展を図っています。一方、ドイツやフランスでは、福祉的意義を有する「社会的企業」が、より収益性の高い業種に取り組むとともに、障害者雇用の上限を50%や70%等に設定してより健常者と一緒に働く企業とする動向もあります。そのほか、アメリカでは、わが国の地域障害者職業センターのモデルである職業リハビリテーション機関が企業との対話を進め、多様な障害者が活躍できる仕事とのマッチングや雇用管理等についての専門支援を全米ネットワークにより提供し、自らを企業経営にも資するビジネスサービスと位置づけるようになっています。障害者就労支援は、医療、生活、教育、雇用4        等の多分野の専門性の総合による高度なものとなっています(イギリスの例:図2)。これに対応するため、保健医療、産業保健、社会保障、就労支援等の関係制度・サービスが個別支援ニーズに柔軟かつ総合的に対応することが重視され、各地域での分野を超えた連携体制の検討や覚書等の作成等が体系的に取り組まれています。また、アメリカでは、精神科医療の専門職が効果的な就労支援に取り組めるような制度・サービスや人材育成の変革や、教育分野から就労への移行支援のための変革が進められています。このように、障害者就労支援が社会全体の取組みとなっていくなかで、アメリカでは、あらためて障害者就労支援の中核的な専門性が明確にされ、専門職の人材育成のための専門研修や資格認定の取組みも進められています。景には、多様な個性の尊重を求める労働のあり方の変化、慢性疾患の増加や労働人口の高齢化等への全社会的な課題への対応があります。の職業リハビリテーション制度・サービスの動向に関する調査研究」(※)では、そのような諸外国の取組みについて、ここで紹介したものの詳細や、それ以外のものも多くまとめています。諸外国での障害者就労支援の大きな転換の背当センター「調査研究報告書№169諸外国障害や疾病と両立できる職業生活の支援5 おわりにすべての従業員(障害のある従業員を含む)の価値が認められ尊敬される企業環境づくりへの全社的取組み採用地域の障害関係団体や支援者との協力関係の構築改善制度※ 「調査研究報告書No.169」は、下記ホームページからご覧いただけます。 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku169.html◇お問合せ先:研究企画部企画調整室(TEL: 043-297-9067 E-mail: kikakubu@jeed.go.jp)働く広場 2024.3表  アメリカにおけるインクルーシブな企業経営のあり方の基本的枠組み図2 イギリスにおける障害者雇用促進への社会的取組基本的枠組みインクルーシブなビジネス文化アウトリーチと人材獲得と維持障害にかかわらない幅広い人材プールからの最も適任の人材の採用合理的配慮を問題予防や生産性確保のために効果的に実施自社の魅力を高める好事例の外部発信。社内広報等での自社内での理解促進社内の情報通信技術、Web等をアクセシブルにすることすべての管理者や従業員への障害に関する研修訓練。担当責任者、数値モニタリング、継続的改善等のシステム化合理的配慮企業内外のコミュニケーションアクセシブルな情報通信技術説明責任と継続的ポイント(米国EARN、2016)(英国労働年金省&健康省:生活の改善:仕事・健康・障害の未来、2017年11月)29

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