インタビューのなかで佐々木さんが「自分のことを信じ、理解してくれる人たちに囲まれてよかったです」と語ってくれたことも印象的だった。マスヤでは特別支援学校からの依頼に応える形で、職場実習生の受入れも不定期に行っている。その1人、渡わ部な歩あさん(24歳)は、特別支援学校2、3年次に職場実習に参加し、2018年に入社した。自宅から職場まで徒歩15分と通いやすい条件もあり、3年次は就職を見すえて3週間の職場実習を行ったという。「本人の『ここで働きたい』という意欲が伝わってきたことが採用の決め手でした」と奥野さん。渡部さんは「いま担当しているのは、 たべ 8毎日やりがいがあります」と笑顔を見せる。製造ラインの機械にせんべいを投入する作業です。たいへんですが、楽しいです。地域のバスケットボールクラブにも所属し、月に1〜2回は電車に乗って津市まで行き、練習に参加しているそうだ。松山さんは渡部さんについて「入社後に挑戦してもらった、せんべいの選別作業はまだ少しむずかしいようなので、ほゆむかの作業を重点的にやってもらっています。一方で彼は、ほかの人が気づきにくいことを率先してやってくれます。手洗い場のハンドペーパーが切れると、いつの間にか彼が補充してくれています」と評価する。奥野さんも「先日も作業中の若手社員がわざわざ私のところに来て、『渡部さん、すごくがんばっていますよ。ほめてやってください』と伝えてくれました。よく見てくれていることに驚きましたし、こんなふうに、よいところを認めてくれる職場だということを感じられるのはうれしいですね」という。また山本さんも「包装部門の全メンバーが、実際に一人ひとりを理解し、協力し合うことで、障害のある従業員も自分の力を発揮できていると思います。一緒に働くメンバーも、伝え方や対応などを考えてくれています」と話してくれた。奥野さんたちは、障害のある人を支援する関係機関との連携にも力を入れてきた。例えば知的障害のある50代の男性従業員については、本人が住むグループホーム側と意見交換会を行い、本人の日常的な性格の傾向も把握し、また、体調などに異変があるときは事前に連絡をもらうことで、トラブル防止につなげている。山本さんは、グループホームの支援者から「お話好きで、少しオーバーに話す傾向がある」と、男性の性格について聞いていたのが役立ったという。ある日、男性が通勤バスのなかで同僚に「熱が出た。新型コロナウイルス感染症かもしれない」と話したため、その後、職場が混乱しそうになったときも、「グループホームからは、体調に異変があるという連絡はなかったので、あわてずに対応することができました」とふり返る。男性はいろいろな仕事をこなせるベテランの1人だが、同僚たちとの人間関係に課題がある。本人から悩みを聞くことが多かった奥野さんは「思うことがあれば、いったんノートに書いて整理してみてはどうか」とうながし、気持ちの整理に役立ててもらっている。2018年には、初めて精神障害(発達障害)のある30代の男性従業員を採用した。奥野さんによると「よく働いてくれていましたが、一方で周囲の同僚との接し方や距離の取り方に悩むことが多く、『嫌われているのではないか』といったことを気にしていました」という。ハローワー同僚からの言葉支援機関と連携しながら渡部さんは、ボックスケースの洗浄作業も担当している包装部門で働く渡部歩さん働く広場 2024.4
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