佐々木さんは県立定時制高校の夜間部に通いながら卸売市場で働き始め、その後は温泉施設の清掃業務などに従事していたが、数年して「しっかり就職したいと思うようになった」ことから、当機構(JEED)の三重職業能力開発促進センター伊勢訓練センター(ポリテクセンター伊勢)で訓練を受けた。その一方、看護師の母親からすすめられて県の障害者相談支援センターに行き、軽度の知的障害との判定を受け療育手帳を取得したそうだ。2015年2月に入社後、佐々木さんはまず基本的な研修を受けた。工場勤務に必要な一定時間内での着替え、衛生管理や入室までの手順、現場で守るルールなどを約1カ月かけて教わった。次に取り組んだのが、主要業務とされ まつと ずまつ 6つ目で確認しながら、生焼けや欠け・割る「せんべいの選別作業」の習得だ。これは、上下に回り続ける筒の表面に空気の吸引力でくっついたせんべいを一つずれのある不良品を瞬時に見きわめ、手もとに用意してある良品と差し替えていくというもの。奥野さんは「工場見学者に選別作業を体験してもらうと、『こんなにむずかしい作業をやっているのか』と感心されます」としながら、最初にこの選別作業から教えた理由について語ってくれた。 「せんべいの選別は、包装部門の現場において基礎となる大事な主要業務です。現場の責任者たちとも相談し、『みんなと一緒に働いていくのであれば、この作業は必須』と考え、多少時間がかかっても、研修でじっくりと確実に習得してもらうことになりました」奥野さんたちは、工場現場からさまざまな状態のせんべいをもらってきて、研修室で佐々木さんに一つひとつ見せながら選別の練習をしてもらった。選別に慣れてくると、今度は現場で短時間だけやってみて、また研修室に戻りフィードバックするという日々が続いた。現場では、製造チームのリーダー補佐を務める山や本も竜た也やさんが、「忙しくなるとつい、言葉がきつくなる人もいるので、本人に声がけするときは気をつけてもらうよう、うながしました」という。さらに一番のベテラン女性従業員に、佐々木さんとペアを組んで指導してもらったそうだ。 「教え方がていねいなうえに、最年長として現場全体を把握してくれていたので、周囲とのコミュニケーションも含め、何かあっても、必ずその女性従業員を通して対応してもらうことができました」計1年近くの研修期間を経て、独り立ちした佐々木さん。8年経ったいまでは、選別作業の合間にさまざまな関連作業もこなせるようになった。せんべいを入れるボックスケースの機械による洗浄をはじめ、ケースを各ラインの現場に運んだり、配送トラックの積み出し場所に並べたり、各現場から出るごみの整理、段ボールの組立て機械の監視なども任されている。これまで指導にあたってきた製造チームの松ま山や一か巳みさんは、「基本的なものから少しずつ業務を増やしていきました。本人に『今度はこの作業もやってみようか』と提案し、『やってみたいです』と意欲を見せてくれたら、多少時間がかかっても根気強く指導します。さまざまな作業が入りまじる現場ですが、今後は、広く浅い仕事をさらに広く深く取り組めるようになってもらい、リーダー的な存在を目ざしてほしいです」と期待をかける。佐々木さんも「前職でがんばっていた清掃業務での知識も活かして、作業の段取りがうまくいったときは達成感があります。今後は、現場の作業の流れの先を見通して、もっとスムーズにできるようになりたいです」と笑顔を見せる。ちなみに佐々木さんは、会社の同僚たちと一緒に、地域の清掃を行うボランティア活せんべいの選別作業などを担当している佐々木さん選別研修の様子。さまざまな状態の実物を使い、見分け方を学んだ(写真提供:株式会社マスヤ)入社当時に行われた入室研修の様子。定められた手順を正しく実施する(写真提供:株式会社マスヤ)働く広場 2024.4
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