働く広場2024年6月号
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――就職先に株式会社デンソー(以下、「デンソー」)を志望した理由はなんですか。小倉――アビリンピック初挑戦から全国アビリンピックで金賞をとるまでの経緯を教えてください。小倉 向いて相談をしました。聾者の受入れは初めてだったそうですが、別室受験の配慮もしてもらって無事に合格しました。入学後は、先生が同級生に私のことを説明し、授業中は隣の席の生徒がノートテイク(要約筆記)をしてくれました。先生から事前に授業内容を教えてもらうこともありましたが、それでも、ついていくのはたいへんでしたね。学校生活では、集団行動の合図がわからなかったり、グループでの会話の輪に入れなかったりといった苦労がありましたが、部活動をがんばっているうちに自然となくなりましたね。投手として高校2年生のときにインターハイ出場、全国大会には数回出場しました。いろいろな友だちができるなかで、世間の一般常識や暗黙のルールみたいなものも知ることができました。高校生活でのさまざまな経験が、自分を客観視する機会を与えてくれ、精神的な強さも育ててくれたと思っています。きっかけは高校の進路担当の先生に「デンソーに障害者採用枠があるよ」と教えてもらったことです。すぐにホームページで調べて会社見学会に申し込みました。現場で活躍している聾者の方や人事部の方の話を聞いて、とても聾者に理解が深い職場だと感じました。入社後は、デンソー大だ安あ製作所(三重県)に配属されました。職場でのコミュニケーションは、高校時代までの経験があるのでとくに困らず、上司や同僚も、私を特別視せずに自然体で接してくれるので、楽しく一緒に働くことができて本当に感謝しています。私は車の部品などを組み立てる業務を担当していましたが、仕事に慣れてきた入社3年目、「新しいスキルを身につけたい」との思いが強くなっていきました。ちょうどそのころ同じ職場で聴覚障害のある先輩が地方アビリンピックの「電子機器組立」種目に出場し、アビリンピックの存在を知り、上司からのすすめで私も挑戦することにしました。2週間程度の訓練期間が与えられます。職場の同僚のフォローのおかげで心置きなく訓練に打ち込めました。練習用の部品や精度のよい工具を用意してもらえたことも、ありがたかったです。 「電子機器組立」は数多くの部品と工具を扱い、はんだづけの接合状態や見栄えが重要なポイントです。いまだからいえますが、もともと私は細かい作業が苦手で、精密機器の組立ても好きではありませんでした。少しずつできるようになってきてから、「楽しい」という感覚が出てきたように思います。   3 いん  性の問題などたくさんの失敗をしました。そのたびに原理原則に立ち返り、原因を追求するPDCAサイクル(※2)で自信をつけ、精神力も鍛デンソーでは、地方アビリンピックに出る場合、社内訓練では、課題の動作不良や外観の整合苦手だった電子機器組立働く広場 2024.6※2 PDCAサイクル:Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)をくり返しながら業務改善を図る方法第10回国際アビリンピックにおいて課題に取り組む小倉さん競技スペースには、さまざまな工具やオシロスコープなどの検査機器が並ぶ第10回国際アビリンピックにおいて製作した電子回路の一部

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