屋があった場合、岡野さんはほかの部屋の固定電話から中平さんに連絡を入れる。 「電話がかかってきた時点で場所がわかるので、現場に行くなどして確認します。そういうフォロー体制さえ取れば、岡野さんに1人での作業を任せられるので、とても助かっています」と中平さんはいう。そんな岡野さんは2014年に初めて地方アビリンピック(高知県)のビルクリーニング種目に出場した。筒井さんによると、「たまたま職場にアビリンピックのお知らせが回ってきて、岡野さんに『出てみる?』と声をかけたらすぐに『出ます!』と返ってきました。なにごとにも意欲的なところが彼女のよいところでもあります」とのことだ。ほかの従業員にも協力してもらって練習を重ね、競技当日は、職場の同僚たちが本人に内緒で作成した横断幕とともに応援にかけつけたそうだ。2017年と2018年には念願の全国アビリンピックにも出場し、2018年は努力賞を受賞した。「アビリンピックに参加できてうれしかったです。今後も楽しく仕事ができるようになりたいです」と伝えてくれた岡野さんは、いまは手話サークルや卓球の活動も楽しんでいるそうだ。病院の清掃部門は、単独で作業に取り組む現場が多く、一人ひとりの心身の状況などを把握しにくいこともある。そのため筒井さんたちは、より意識的に、本人や家庭も含めて意思疎通と情報共有を図る機会をつくっているという。山﨑さん、半田さん、岡野さんについても、日ごろから何かあれば家庭と連絡を取り合うなど連携し合っているそうだ。職場で本人に比較的大事なことを話したときは、必ず家庭に電話などで伝えるようにしている一方、家庭からも日常的にさまざまな連絡が入る。例えば、山﨑さんの母親からは「今日 はお弁当がないので売店で買わせてください」、「今日は別のルートでバスに乗ります」といったショートメールが届くそうだ。「基本的に本人が1人でできることですが、私たち周囲の従業員が『お金はちゃんと持った?』、『今日は別のバスだから時間違うよね』、『トイレは先に行った?』など家族のように声がけをしています」と中平さん。筒井さんは「もともと私たちの職場では、障害の有無に関係なく、従業員に深くかかわってきました。入社まもない従業員に異変を感じたら、すぐに家族に連絡して事情を聞きますし、無断欠勤した場合は、本人の安否確認が取れるまで自宅まで行くこともあります」と説明する。従業員一人ひとりと深くかかわる社風を象徴するのが、全従業員に渡されている「ドリームカード」だ。名刺サイズに折りたためる細長いカードには、会社の経営理念やミッションなどがわかりやすい言葉で書かれているほか、表紙には「どんな小さな事でも…どんな悩み事でも…365日24時間お待ちしております。」との言葉とともにフリーダイヤルの電話番号が記載されている。日ごろから家庭と連絡を取り合う「ドリームカード」には「私の夢」が記入されている2017年に開催された第37回全国アビリンピック(栃木県)で競技に臨む岡野さん働く広場 2024.710
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