働く広場2024年8月号
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くいことも多いですから、当事者が積極的に声をあげて改善してもらうことは大事です」と教えてくれた。岩崎さんの母親もかつて、駅構内のエレベーターの増設などを訴え、国会に陳情書を持って行ったこともあるそうだ。通勤は、以前は父親が送迎してくれたそうだが、いまは往復でタクシーを使う。会社と市からの補助を組み合わせ、一部は本人負担だという。岩崎さんはパートタイム雇用だが、勤続年数や人事評価などで昇給し、賞与も含め正職員とほぼ変わらない処遇だという。もちろん試験結果などの条件が揃えば正職員登用も可能となっている。 「じつはこれまでには、前向きに転職した人も何人かいます」と加藤課長。例えば精神障害のある女性は、人事課で労務関連の業務にかかわったことから社会保険労務士の資格を取得、「資格をもっと活かせる職場で正社員として働きたい」と、社会保険労務士事務所に転職していった。「資格を取ると社内では奨励金も出るのですが、将来は社労士として独立したいという夢もあったようです。私たちには痛手ですが、本人にとってはよかったのだろうと思っています」と加藤課長。最近は、加藤さんの成功例を機にハローワークから続々とパソコンスキルのある人材の紹介を受けている。だが毎回うまくいくわけではないようだ。昨年から3人が職場見学に訪れ、それぞれ1日1人ずつ、4階の営業推進部で集計作業を手伝ってもらったという。加藤課長たちは「十分やっていけそうだ」と手ごたえを感じ採用するつもりだったそうだが、「人とのかかわりを避けたい」と工場勤務などの仕事を選ばれてしまったという。「特に営業推進部があるフロアは、緊張感のある会話が飛び交っているため、本人たちにプレッシャーを与えてしまったかもしれません」とふり返る加藤課長。 「そういう意味では、やはり最初は障害者雇用について一定の知識と理解がある人事部でていねいに育成してから、本人の希望に合わせて異動、もしくは人事部を拠点にして、不定期に応援派遣のような形でほかの部署を経験しながら職場に慣れてもらうという方法を考えています」試行錯誤を重ねる日々だが、「一人ひとり特性も事情も異なりますので、なにごともトライだと思いながら、引き続き取り組んでいきたいと思っています」と話す加藤課長たちの前向きな姿勢の裏には、就労移行支援事業所側の取組みへの期待もあるようだ。 「見学に行ったとき、いろいろなシチュエーションで訓練されているのを見て感心しました。より具体的でリアルな職業準備性を身につけてもらっていると、より採用しやすいと思います」静清信用金庫では今後も、ハローワークや就労移行支援事業所と連携しながら採用を進め、戦力になる人材の確保と育成を続けていくそうだ。 9     前向きな転職者も玄関にあった段差の一部を削り、なだらかなスロープ(手前)とした岩崎さんもパソコンのスキルを業務に活かしている総務課で働く岩崎真弓さん働く広場 2024.8

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