あっけらかんと伝えるてんかんの多様性、見えない障害、奇異に映る行動てんかんてんでんこ聞いてみなけりゃわからない当事者が変われば社会が変わる私にけいれん発作が起こったのは、病棟師長をしていた38歳のとき。日勤で働き、そのまま当直で一睡もできず、翌日は学会に出席し、36時間ぶっ続けで労働を終えた日の夜のことでした。半年後にも当直後にけいれん発作が起こり、てんかんと診断されました。55歳でうつ病になり、これからの生き方を変えようと、講談でてんかん啓発活動を続け、「加納塩梅のテンカン小噺チャンネル」でYouTube動画を配信しています。私は自分のてんかんを、職場でもどこでもだれにでも伝えています。あっけらかんと、「私、てんかんなんです。あ、ご心配なく、あなたの前では倒れませんから。私の発作は薬の飲み忘れが続いて、無茶な働き方で過労と睡眠不足、さらに過ぎた飲酒、これを全部やると発作が起きる。でも、いまはコントロールができているので、発作はないです」。伝え方ひとつで、聞いた人のとらえ方がガラッと変わります。重要なことは、自分のてんかんについてだれよりも詳しくなり、自分の言葉で伝えられるようになり、そして仲よくなることです。それが、世間の誤解や杞き憂ゆを解消していく一番の道だと思っています。100人に1人は「てんかん」になります。子どもの発症が多いと思われがちですが、じつは75歳以上になってから発症する方が一番多いのです。進学や就職で生活環境が変わり、睡眠不足や過労をきっかけに、てんかん発作が始まる若者もいます。てんかん発作は脳に起きた「一時的な不具合」の表れですので、発作をくり返すこと以外問題はなく、その発作も適切な治療によって約8割の人が抑えられます。発作の種類も全身のけいれん発作はごく一部の方であって、一時的に体の動きが止まったり、ぼーっとしたり、口をもぐもぐしたりとじつにさまざまです。本人の意識が一時的にないため自覚できない発作や、周囲には見えない発作、奇異な行動に見える発作などは、なかなか周囲の理解が得にくいのです。事業主の方に知っておいてほしいことは「てんかんてんでんこ、聞いてみなけりゃわからない」ということに尽きます。「てんでんこ」というのは「てんでんバラバラ」のこと。人それぞれなので、本人に聞いてみなくてはわからないのです。入社面接などで「てんかんなんです」と告げられたら、「てんかんだから採用できないということはありません」、発作を起こしてしまったら、「てんかんだからといって辞めてもらうことはありません」と、キッパリと伝えていただきたいです。そのうえで、こう聞いてください。「てんかんといっても人それぞれでしょうから、あなたの場合について教えてください。発作は抑えられていますか。どのような発作が、どういうことをきっかけにして起こる可能性がありますか。仕事をするうえで配慮してほしいこと、配慮は不要なことも教えてください」と。私のように発作をコントロールしながら働き続けている方は大勢いますし、発作があっても小さな配慮を得ながら働いている方ももちろんいます。しかし、発作がほぼコントロールできているのにもかかわらず、「てんかんだから」というだけで門前払いをされてしまう方がいるというのも事実なのです。多くの方々から学んだ「病や障害があろうがなかろうが、その人らしく生きていくための知恵」を、てんかん当事者および、その家族や支援者のみなさんへお伝えできればと考え、YouTube動画「加納塩梅のテンカン小こ噺ばチャンネル」のエッセンスを詰めた小冊子『知識より大切なことがある スーパー指南書 を作成しました。「当事者が変われば社会が変わるプロジェクト」の一つとしてこの小冊子をみなさんにお届けする啓発活動をしておりますので、お声をかけていただけるとうれしいです。なしてんかんと人生』ばいのうあん 1950(昭和25)年生まれ。大学卒業後看護師として49年間働く。てんかん発症は看護師長だった38歳、うつ病発症は精神科病院看護部長の55歳のとき。1年間の休職後、大学院でリハビリテーションを学び、大学教員として13年間働いた後、70歳で再び精神科病院の看護部長となる。講談看護師「加」として創作講談やYouTube「加納塩梅のテンカン小噺チャンネル」でてんかん啓発活動を行う。日本てんかん協会千葉県支部事務局長。加納塩梅のホームページ:https://anbai-storyteller.themedia.jp公益社団法人日本てんかん協会にご協力いただき、「てんかんとともに」と題して全5回シリーズでお一人ずつ語っていただきます。看護師納塩梅か う 働く広場 2024.8第2回加納佳代子(かのうかよこ) てんかんてんでんこ 聞いてみなけりゃわからないエッセイ19てんかんとともに
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