働く広場2024年8月号
8/36

職員の名簿づくりだった。1年を通して頻繁に異動があるため、そのたびに支店別、部署別に名前を入れ替える作業を、加藤課長は手作業でやっていたそうだが、加藤さんはエクセルの機能を駆使して、自動的に更新できるように整えてくれたそうだ。加藤課長がふり返る。 「私が何気なく『こういう社内名簿づくりは、更新が面倒なんだよね』と話していたことを覚えていたようで、ある日、自主的に完成させていました。『これはだれがつくったの?』と聞いたら『僕です』というのでびっくりしました」加藤さんは、就労移行支援事業所で見        6スキルアップしていたのだそうだ。つけたエクセルの本を読みこみ、独学で一方で、実習時から対応を迫られた、いくつかの課題もあった。一つめがコミュニケーションだ。加藤課長が説明する。 「もともと就労移行支援事業所から、彼が会話で言葉が出にくいと聞いていましたが、配属予定先の人事部は社内からの問合せなど対話が必要なことが多く、相手方全員に特性を理解してもらえるわけでもありません。いかに職場に溶けこめるかがポイントでした」加藤課長たちは、就労移行支援事業所から提供された、加藤さんについて配慮すべき点などをまとめた資料を部内で共有し、「まずは本人からの言葉を待つ」、「仕事を頼むときは一人一つずつ順番に」といったことから始めた。具体的には、加藤課長が加藤さんの窓口となって、さまざまな業務のスケジュールを交通整理していったそうだ。 「一方で、彼自身がうまくコミュニケーションをとっていけるような指導も心がけました。廊下で彼とすれ違うたびに『こういうときに、お疲れさまって挨拶するんだよ』などと声をかけていましたね」もう一つの課題が遅刻だ。「学生時代は、昼夜逆転の生活習慣もなかなか治せませんでした」と明かす加藤さんは、就労移行支援事業所で支援を受けるなかで改善していったが、それでもトライアル雇用期間中に3回、遅刻してしまったことがある。加藤課長は「朝が苦手だとも聞いていましたが、ある日は電話をしたときにまだ寝ていたので、さすがにきつく注意しました。同時に就労移行支援事業所にも連絡し、精神面でのフォローをお願いしました。もちろん本人は、真っ青な顔で職場に来たので、反省はしているのだなと思いました」と話す。後でわかったそうだが、遅刻には、緊張による不眠や体の不調も影響していたという。これについて加藤さん自身も説明してくれた。 「トライアル雇用期間中に、就労移行支援事業所の担当者や主治医と相談して自分に本当に必要な睡眠時間を確認し、逆算して就寝できるよう薬も処方してもらいました。いまは薬に頼らずにすんでいます。緊張で眠れないということがなくなったからだと思います」正式採用されてから半年経つが、それから遅刻は一度もない。「いまでは、なんでも一人でできるようになりましたね」と、加藤課長は太鼓判を押す。加藤さんは正式採用されてまもなく、給与にかかわる各種保険料の算出という大事な業務も手がけるようになったが、これには想定外の事情もあった。当時担当していたベテラン職員が急きょ定年後いくつかの課題も改善他部署からも頼られる存在加藤さんは、人事部に届く郵便物の仕分けなども担当している働く広場 2024.8

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る