働くことの本質とは何か? 松爲 ここで「ワーキング心理学」(※2)という考え方に注目したいと思います。これは、単に職業としての働き方だけでなく、家庭での役割や余暇、ボランティア活動なども含めて、働くことをより広い意味でとらえる考え方です。 八重田 つまり、働くことは金銭を得る手段としてだけでなく、そこに時間を費やすこと自体にも意味があり、自己の満足感にもつながるということですね。「働くとは何か」という根本的な問いにつながりそうですね。私自身も「せっかく働くなら、喜んで楽しく働きたい」と考えています。就労支援においても、対象者の人生の充実感を高めることにつながる支援ができれば、その意義はいっそう高まるでしょう。 松爲 そうですね。仕事や役割を通して、相手に感謝されるなどの喜びを得られることも働くことの醍醐味ともいえます。単に金銭を得るために仕事をするのではなく、仕事を通して相手に貢献できる喜びや自己充実感を得られるよう、「クオリティ・オブ・ライフ(※3)」や「ウェルビーイング(※4)」につながる支援が、今後の課題であり目標となると思います。障害者雇用における キャリア支援の重要性 松爲 障害者雇用に関して、もう一つ重要なのは「キャリア形成」だと考えています。アメリカでは、キャリアという言葉はどのようにとらえられていますか? 八重田 アメリカでは「キャリア」という言葉がより広い意味で使われていて、単に働くという意味ではなく、生まれてから死ぬまでの「人生航路」という形でとらえられることが多いですね。転職を重ねながら経験を積み、自分の適性に合った分野を模索していく考え方が浸透しています。 日本においてもそのような視点で、職業リハビリテーションを拡げていってほしいと思います。 松爲 日本では、障害者に対して「キャリア」という概念がまだ十分に浸透していないと感じます。一方、アメリカでは1980〜1990年代ころからプロフィール用語解説※1 職業リハビリテーション障害者に対して職業指導、職業訓練、職業紹介その他この法律に定める措置を講じ、その職業生活における自立を図ること(「障害者の雇用の促進等に関する法律」より)※2 ワーキング心理学アメリカのD.L.ブルスティン博士が提唱。働く人すべてに「尊厳ある仕事」が与えられるべきという理想を支える理論※3 クオリティ・オブ・ライフQualityofLife。「QOL」とも略される。日本語では「生活の質」や「人生の質」などと訳され、生活や人生に対する満足度をあらわす指標のこと※4 ウェルビーイングWell-being。身体的、精神的、社会的に良好ですべてが満たされた状態のこと前日本職業リハビリテーション学会会長。2022年より「松為雇用支援塾」を主宰し、障害者雇用をリードできる支援者の育成に力を尽くしている。松爲 信雄(まつい のぶお)神奈川県立保健福祉大学・ 東京通信大学名誉教授八重田 淳(やえだ じゅん)筑波大学大学院教授「リハビリテーション科学学位プログラムリーダー」として、専門性を備えた人材を養成すると同時に、社会人の再教育の機会提供の研究にも取り組む。働く広場 2025.121
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