働く広場2025年2月号
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い人たちばかりで、いろいろ話しかけてもらえるのがうれしいです」とも語ってくれた川上さん。プライベートでは一人暮らしを目ざし、1年以上前からグループホームで生活しているそうだ。 矢吹さんも、特別支援学校時代に日本海冷凍魚で職場実習を受けたが、たまたま採用しない年だったために別の会社に就職した。しかし、しばらくして事業閉鎖のため退職を余儀なくされてしまう。あらためてハローワークで日本海冷凍魚の求人票を見つけ、3カ月間の障害者トライアル雇用を経て念願の入社となったそうだ。 矢吹さんは、洗濯業務も担当しているが、入社当時からそこで仕事を教えてくれたメンター役の上司は、いまも頼りにしている大事な存在だという。 「なかなか人にいえないような自分の悩みも話しています。解決法などを教えてもらったり、アドバイスをもらったりしています。話を聞いてもらえるだけでも安心できます」 いま担当している冷却作業は、「ずっと体を動かしているので好きです」という矢吹さん。「まだまだ覚えることもありますが、社会人としてきちんと働き続けられるよう体力もつけていきたいです」と意欲を見せていた。 最後に見せてもらったのは、水揚げされたカニが解体されている現場だ。機械や手作業で部位ごとに流れ作業でケースに分けられ、各レーンの端に積み上げられていく。 レーンの間を早歩きで行き来しながら、ケースを移動させていたのは田た村むら拓たく海みさん(21歳)。特別支援学校在籍時の実習を経て2021年に入社した。志望した理由を聞くと、「社員旅行や新年会などがあって楽しそうだと思ったからです」と教えてくれた。 「働き始めた当初は、各レーンの積み上げ具合を見ながら臨機応変に動かなければいけないので、ついていくのがたいへんでした」とふり返る一方、「あちこち動き回るようになって、体力もつきました」と笑顔で話す。 記憶するのが少し苦手という田村さん。高橋さんも、このことを田村さんの母校から聞いていたので、忘れてはいけない業務内容などは、紙に書いてロッカーに就業前の声がけが“スイッチ”貼っておくなどの工夫をしてきた。 いまの課題は、たまに原因がよくわからず体調が悪くなり、現場での動きが緩慢になってしまうことだという。その日のうちに「何かあったの?」と聞いても、本人自身もわからないことが多いそうだ。「逆によいときはすばらしい働きぶりなので、体調が悪くなるときの理由がわかるようになるとよいのですが」と高橋さん。 作業日誌になるべく日々のことを書き加えながら、調子の波について分析できるよう試行錯誤しているところだが、最近はよい傾向も見られるという。柳楽さんによると、「朝、現場で田村さんのメンター役の社員が声がけをするとスイッチが入るみたいです。忙しくてそれができないと、スイッチが入らないままお昼を迎えることもあって、そのときは私が声がけをすると午後から動けるようになりますね」。 高橋さんも、「毎日どれだけきちんと声がけができるかが大事かもしれません」と話す。 ところで、田村さんは最近、朝は自分でお弁当をつくっているという。「親にいわれて始めました。冷凍食品ばかりですけど」と苦笑いするが、これも社会人としての大事な一歩だ。各レーンから出されたケースを 次の工程へと運ぶ田村さんケースの移動を担当する 田村拓海さんカニの入ったケースを冷却装置に投入する矢吹さん働く広場 2025.28

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