田村さんと同じ現場には、頼もしい先輩従業員もいる。2017年入社の勝かつ部べ裕ゆう太た郎ろうさん(26歳)だ。 担当しているのは、各レーンに積み上げられた解体後のカニ入りケースを隣のフロアに運び、次工程につながるレーンに送り出す仕事。部位ごとに冷却などに適した重さが決まっているため、勝部さんは、ケースをレーンの台に載せるたびに、計量数値を見ながら手作業で中身を加減し、適量になったケースから送り出していく。「作業に手間取っていると、すぐにケースがたまってしまいますが、重量数値を間違ってはいけないので、たいへんです」と勝部さん。高橋さんも、「時間と正確さが問われるうえに体力も必要な、とても重要な仕事です」という。 勝部さんは、特別支援学校時代にいくつかの会社の職場実習を経験したなかで、日本海冷凍魚が一番合っているような気がしたという。いまも「入社してよかったと思っている」と話す勝部さんに理由を聞くと、こう返ってきた。 「職場環境に恵まれていると思います。「尊敬する上司のように」じつは僕は、昔からすぐにイライラしてしまう悪い癖があったのですが、上司や柳楽さんたちと話し合いながら『考えすぎないこと』を心がけるようにしました。いまは、細かいことにイライラする感情を完全になくすことはできなくても、10%ぐらいまで小さくなりました。この職場のおかげです」 柳楽さんは勝部さんについて「とても向上心があって、まじめに仕事に取り組んでくれているのがよいところです。たまにそれが空回りしてしまうことがあるので、みんなで声がけをしながら見守っています」と話す。 勝部さんは、いまも仕事の不安や人間関係が苦手なことなど「課題はある」としたうえで、今後の目標も話してくれた。 「少しずつ改善していって、新しいことにも取り組みたいです。上司が尊敬できる方なので、いつか自分も上の立場になったら、そういう人になりたいです」 日本海冷凍魚は、2024年に初めて精神障害のある女性を採用した。3カ月間の障害者トライアル雇用を経て、現在精神障害のある従業員もは通院や体力面を考慮し、4時間勤務で働いている。 トライアル雇用中から、仕事のことをメモに書き留めるなど一生懸命な姿も見られた女性社員は、入社前に、合理的配慮として「同時並行で二つ三つのことに取り組むのは、頭が混乱するためむずかしい」、「気持ちがハイテンションになりすぎるとその次に急激に下がってしまうことがあることを知っておいてほしい」と自らの特性を伝えた。女性は以前の職場で、障害のことをいわずに働いていてうまくいかなかった経緯があったそうで、「今回は思い切って開示したところ働きやすくなり、本当によかったです」と話しているそうだ。 今後の障害者雇用について、柳楽さんたちは次のように話してくれた。 「特に食品加工の現場は人手不足になりがちで、若い人たちもなかなか続かないという傾向もあります。そんななかで障害のある従業員のみなさんが、現場の戦力として働き続けてくれることは大きな安心材料です。職場実習やトライアル雇用でのマッチングを重視しながら、今後も可能なかぎり障害のある人を採用していけたらと考えています」適量になったケースをレーンに送る勝部さんケースの移動を担当する 勝部裕太郎さん働く広場 2025.29
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