ある生徒が発表したのは好きなアニメについてであった。発表後の質疑応答場面で審査員の校長は、発表者の生徒がアニメの登場人物〇〇の「生き方」に憧れていることを把握し、「◯◯の姿をみて、あなたはどのようにしたいと思いましたか」と聞いた。 すると生徒はしばらく沈黙し、答えるために一生懸命思考しているようにみえた。 そしてしばらく見守っていた審査員の校長は、「あなたが◯◯に憧れて、まねしたいところでもいいですよ」という。 すると生徒は熟考して「(質問されるまでは十分に)考えていなかったけれど、〇〇のように何か(たいへんなことが)あってもなかったと思えるようになりたい」といった。 アニメの登場人物にはいつもさまざまなトラブルやたいへんなことが起こるが、その問題と向き合い自分らしく生きようとしているそうである。生徒はその姿に憧れているようであった。その言葉の背景には自身の「これまで」と「いま」があり、問いはあらためてこれからに目を向けるきっかけとなったと推察した。 その言葉を受けて、審査員の校長は最後に「あなたは、◯◯のようにたいへんなことがあっても、ふり回されず、がまん強く向き合いたいと思っているのですね」と発表した生徒の言葉や思いを価値づけ また、一堂に会して行うことや種目を超えて見あうことが生徒の意欲の向上につながることから、そのあり方についても検討が必要であろう。④農業分野 農業分野は、青森県による農福連携の推進にともない、新たに設定することになった種目である。本種目での具体的な活動は、基準に見合った野菜の選定計量とパッキングであり、他県で「流通・サービス」として実施しているものに近い。そのようなことから注目も高い分野である。(2)コミュニケーション部門①プレゼンテーション発表分野 プレゼンテーション発表分野では、プレゼンテーションソフトを用いて、単に興味・関心のあることや学習したことを発表するだけではなく、「なぜ」、「なんのため」に取り組んだのか、どのような「気づき」や「学び」があったのか、そして「どのようになりたい」のかなど、「思い」を自分なりに「表現」したり、審査員の質問に対して「思考・判断」し、伝えたりすることを重視している。そのため審査する側は生徒の思いの理解に努めることと、問いの力が求められることになる。 プレゼンテーション発表分野の審査は各校から選出された校長が対応しているが、過去の審査場面のなかから興味深いエピソードを次に紹介したい。多くの支援を必要としてきたであろう、知的障害をともなう自閉症のある生徒がいて、自分の力を最大限に発揮しチャレンジしている姿が印象的であった。②接客サービス分野 接客サービス分野では、ホテルの喫茶部門を外部専門家として活用するなど、より本格的に学んでいる学校もみられる。 技能検定のなかで唯一、直接顧客にかかわる種目であり、周囲にみられるなかで緊張感も高まりやすい。それと同時に、みているほかの生徒にとっても憧れの対象となり、チャレンジしたいという気持ちも高まる。衛生面への意識化の必要性も高い種目であり、その教育的効果も大きい。③PC入力分野 PC入力分野は、日々の学習活動と関連づけやすい身近な種目といえる。かつては企業の協力を得て、会場にPC(パソコン)を搬入して実施していたが、現在は一つの会場で行うことが困難だったコロナ禍をはさんでからは、各学校で実施する形になって生徒は移動の負担がなくなり、受検者が増えている。 PC入力分野は、一級が通常の検定の四級につながるように評価規準を工夫している。技能検定実行委員会の専門家からは、生成AIの活用を検討することなどを提言されており、今後の導入によるさらなる充実が期待されるところである。「プレゼンテーション発表分野」。プレゼンテーションソフトを用いて発表を行う「接客サービス分野」。模擬喫茶店で接客サービスを行う働く広場 2025.224
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