働く広場2025年3月号
21/36

gender of household head female malegender of household head female malehousing recovery rate1.000.750.500.250.002011/3 2012/3 2013/3 2014/3 2015/3 2016/3 2017/3timehousing recovery rate1.000.750.500.250.002011/3 2012/3 2013/3 2014/3 2015/3 2016/3 2017/3timemalemalefemalefemale名取市仙台市生活再建推進プログラム生活再建加速プログラム同志社大学社会学部教授 立木茂雄誰一人取り残さない防災とは?第4回個々の脆弱性に応じた衡平性原理脆弱性に応じた衡平性原理―― 被災者支援に合理的配慮を求めて 防災の現場では、命を守るために すべての住民を一律に扱う「平等性(equality)」が重視されてきた。戦後の日本社会では「絶対的平等」が社会の基盤として必須であったが、現代社会ではその限界が浮き彫りになっている。個々の社会的脆弱性に応じた支援、つまり「合理的配慮」の提供が求められている。これを支えるのが「衡こう平へい性(equity)」という考え方だ。災害が拡大させる格差―― 住まい再建速度にみる現実 災害は被災前から存在する不平等や格差をさらに拡大させる。東日本大震災の被災地である宮城県名取市と仙台市における「住まい再建速度」を世帯規模別に示したグラフが、その実態を浮き彫りにする(図1参照)。いずれの地域でも世帯規模が大きいほど再建が迅速だったのに対し、単身世帯では再建が著しく遅れていた。 さらに、世帯主のジェンダーによる違いも顕著だ(図2参照)。所得や就業形態によるジェンダー格差が、災害後の住まい再建にも大きな影響を及ぼしていた。仙台市の変革―― 災害ケースマネジメントの導入 しかし、仙台市では2015(平成27)年4月をさかいに再建格差が急速に縮小していることが注目される。同市では2014年から配慮を必要とする世帯への生活再建推進プログラムを実施し、翌年から「災害ケースマネジメント」を柱とする生活再建加速プログラムを開始。従来の申請主義を脱し、生活再建に必要な資源やサービスを個々の被災者のニーズに応じてマッチングする伴走支援の仕組みを構築した。 その効果は明らかだ。仙台市の仮設住宅入居率の減少速度を、災害ケースマネジメントを導入しなかった場合のシミュレーションと比較すると、実際の仙台市の減少速度がはるかに速いことが確認された。この取組みにより、仮設住宅から恒久住宅への移行が大きく前進した。合理的配慮がもたらす支援の未来 仙台市の成功の鍵は、被災者一人ひとりの多様なニーズ――健康、職業、住環境、地域とのつながり――に応じた合理的配慮を提供した点にある。災害ケースマネジメントは、単に被災者を一律平等に扱うのではなく、各人の状況に寄り添い、最適な支援をタイムリーに提供する仕組みだ。 この取組みは、支援のあり方を見直す大きな一歩となった。被災地での格差を縮小し、生活再建を後押しする「衡平性原理」に基づいた支援モデルは、今後の防災・復興の現場で欠かせない指針となるだろう。仙台市の実践が示したように、多様性に応じた合理的配慮が、より公平な社会の構築へと道を開いていく。エッセイ 1955(昭和30)年兵庫県生まれ。1978年関西学院大学社会学部卒。同社会学研究科修士課程修了後、1980年よりカナダ政府給費留学生としてトロント大学大学院に留学。MSW(マスター・オブ・ソーシャルワーク)ならびにPh.D.(ドクター・オブ・フィロソフィー)修得。1986年より関西学院大学社会学部専任講師・助教授・教授を経て2001(平成13)年4月より現職。 専門は福祉防災学・家族研究・市民社会論。特に大災害からの長期的な生活復興過程の解明や、災害時の要配慮者支援のあり方など、社会現象としての災害に対する防災学を研究。 おもな著書に『災害と復興の社会学(増補版)』(萌書房、2022年)などがある。立木茂雄(たつきしげお)図1 世帯規模別住まい再建速度の比較:名取市と仙台市出典:Tatsuki, S., & Kawami, F. Longitudinal impacts of pre-existing inequalities and social environmental changes on life recovery: Results of the 1995 Kobe Earthquake and the 2011 Great East Japan Earthquake recovery studies. International Journal of Mass Emergencies & Disasters, 41(1), https://doi.org/10.1177/02807270231171504図2 世帯主のジェンダー別住まい再建速度の比較:名取市と仙台市famliy size more than 5 persons 4 persons 3 persons 2 persons singlemore than 5 persons4 persons3 persons2 personssinglehousing recovery rate1.000.750.500.250.002011/3 2012/3 2013/3 2014/3 2015/3 2016/3 2017/3timefamliy size more than 5 persons 4 persons 3 persons 2 persons singlehousing recovery rate1.000.750.500.250.002011/3 2012/3 2013/3 2014/3 2015/3 2016/3 2017/3timemore than 5 persons4 persons3 persons2 personssingle生活再建推進プログラム生活再建加速プログラム名取市仙台市19働く広場 2025.3

元のページ  ../index.html#21

このブックを見る