働く広場2025年4月号
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 田淵さんは日常生活では、ロフストランドクラッチと呼ばれる杖つえを使用しており、入社当初は、工場内も杖を使って移動していたそうだが、「慣れてくるとかえって邪魔だったので、いまは職場では使っていません」 真円度測定機の後方には、「部品の表面がどれほど滑らかであるか」を調べる表面粗さ測定機が置かれている。田淵さんはこの二つの測定機の間にいすを置いて、座りながら並行して使っている。 「ほぼ座った状態で仕事ができるので、私にとってはとても作業しやすい環境です。数年前に別の業務をしていたときも、いすに座ったまま作業できるよう工夫してもらっていました」 これまで仕事上で苦労したことなどについて聞いてみたところ、「一度、真円度測定機に使う針状の部品を誤って曲げてしまったことがあります」と明かし、「別の作業も一緒にやろうとして注意が足りなかったのかもしれません。高価な部品なので、上司に『給料から天引きにしてください!』といったところ、『そんな必要ないよ』と笑って許してもらいました。それ以来、特に気をつけて作業しています」と教えてくれた。 田淵さんは入社後、自動車免許も取得し、ほかの社員と同様にマイカー通勤をしている。「でも、いまでも運転は慣れないというか、自信があるわけではありません」とうつむき加減に答える田淵さん。職場前にある社員用駐車場には、田淵さんが一番停めやすい場所に身体障害者用であることを示すポールが置かれている。 田淵さんの先輩社員にあたる品質管理課の立たて石いし晃あきらさんによると、職場内では「すれ違うときなど、本人が移動しやすいよう少し配慮するぐらいです」といたって自然体で接しているそうだ。 「彼のよいところは、まじめなところです。部品をだめにしたときには給料の天引きを願い出てきましたが、私たちもたまに部品を壊しますからね。いずれにせよ、そういう姿勢も含めて誠実だと思います」 一方で、まだ若い田淵さんには、もっと貪欲にスキルアップを目ざしてほしいそうだ。「例えばエクセルのマクロやプログラミングなど、会得できれば本人の大きな武器になります。業務的にメリットがあれば会社も支援してくれると思いますし、将来的に何かあっても生きていく糧になるはずです」とアドバイスする。 「個別に勉強したいことがあれば、社長に直接相談してみたらいいと思います」と立石さん。そんな気軽にできるのかと聞いてみたところ、2022年から3代目の代表取締役社長を務める藤ふじ田た紹つぎ宏ひろさんは、自身の作業用デスクを品質管理室内に置いており、日ごろから田淵さんの座席から数メートルの距離にいるそうだ。社長室は別棟にあるものの、来客があったときしか使っていないのだという。山本さんが「いまの社長が、社員として入社した十数年前から、ずっとこの場所真円度測定の様子。中央に弁棒、その右側に針状の測定子が見える真円度を測定する田淵さん表面粗さ測定機に向き合う田淵さん品質管理課の立石晃さん働く広場 2025.48

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