働く広場2025年4月号
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だそうです。本人にとってはここが一番仕事もしやすいのでしょう。ほかの社員も、いまでは特に気にしていません」というほど、社員との距離が近いようだ。 瀬戸製作所では、職場で長く働き続けられるための柔軟な環境づくりも行ってきた。通院などのために、時間単位での年次有給休暇の活用を積極的にすすめているほか、休職した社員には、個別の職場復帰プランも作成している。 ある社員は一時期、内臓疾患により長期入院と療養を余儀なくされた。復帰後も週3回の人工透析が必要だったことから、本人と相談しながら事情に合わせて勤務時間などを変更し、いまも活躍してもらっているという。 総務部長の山本さんは、「社員旅行のときも、この方が人工透析を受けられる病院を事前に調べて手配をし、一緒に楽しむことができました」と話してくれた。 これまでの瀬戸製作所の障害者雇用は、透析に通いながら働き続ける「人にやさしい会社」としてトップの姿勢によって、ごく自然に取り組んできた結果だ。山本さんによると、「組織として特に障害者雇用に取り組んできたというよりも、代々の社長が、個人的に相談されたり、困っている話を聞きつけたりすると放っておけないようで、その都度、働きたくても働けない人たちを受け入れてきたようです」とのことだ。 例えばコロナ禍のときは、電車で1時間離れている高松市内の飲食店が軒並み休業したため、留学生のアルバイト先がなくなり生活に困っているとの話があった。そこで、当時の社長でいまは代表取締役会長を務める藤ふじ田た晃あきらさんが、留学生10人近くをアルバイトとして受け入れることを決断。本人たちから、できそうな作業を聞き取ったうえでふり分け、留学生たちが授業後に高松市から通えるよう、藤田会長自身が毎日車を運転して送迎していたそうだ。 「現社長の日ごろの言動をみていると、先代社長の姿勢を自然と受け継いでいるように感じます。その姿勢が職場全体にも伝わり、障害のある人も一緒に働きながら自然と“共生”精神のような社風になっているように思います」といいながら、山本さんはあるエピソードも教えてくれた。 「景気の波によって会社が不安定だったときも、いまの社長が『会社都合で契約社員の更新を止めるようなことは絶対にしない』と話したのを覚えています。あらためて、人にやさしい会社なのだと感じています。そういうトップの姿勢が、私たち社員の会社への信頼につながりますし、みんなでがんばろうという気持ちにもなれますね」 取材時、現社長の藤田紹宏さんは中国に出張中のため会えなかったが、「会社と社員のために奮闘してくれていると思います」と山本さん。 瀬戸製作所では今後も、障害者雇用に特に力を入れるというより、これまで通り、「働きたくても就職先がなくて困っているような人たちに、その人の能力に応じた仕事を考え、できるかぎり雇用していく」という姿勢を守っていくという。 これまで雇用してきた障害のある社員のなかには、キャリアアップして転職した人もいる。山本さんは、「前向きな退職・転職はもちろん応援しますし、働き続けたいという人には少しでも働きやすい職場環境を、みんなで考えながら工夫していけたらと思っています」と語ってくれた。働く広場 2025.49

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