働く広場2025年4月号
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障害者雇用の意義とは? 日本の障害者施策の基本理念は、すべての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目ざすことです。この理念に基づき、障害者の職業を通じた社会参加を実現するため、1960(昭和35)年に制定された「障害者雇用促進法(正式名称:障害者の雇用の促進等に関する法律)」では、障害者が適切な雇用機会を得られるよう支援するとともに、企業に対して、障害者雇用の義務を課しています。そのため企業には一定数以上の障害者を雇用する義務があり、この基準は「法定雇用率」として定められています(※)。 日本の障害者雇用は、身体障害者の雇用として、戦争で負傷した傷しょう痍い軍人の就職を進めるために始められました。そして、障害者の法定雇用率は、障害者雇用促進法の制定により、1960年に企業への努力義務として導入され、1976年に義務化されています。その後1998(平成10)年に知的障害者、2018年から精神障害者の雇用が義務化されました(表1参照)。 「働くこと」は、収入を得る手段としても意味がありますが、加えて社会の一員として役割を果たし、自己価値を高める大切な機会となります。職場での貢献を通じて成長したり、能力を認められて自尊心を育んだりすることができます。また、経済的な自立を果たすことで、生活の質が向上し、社会とのつながりを深く感じられるようになります。これは障害の有無に関係ありません。 障害者雇用では、法定雇用率が定められていることもあり、どうしても雇用率や雇用人数に目が向いてしまいがちですが、「働く」とは何か、どんな意味があるのかを考え直すとてもよい機会にもなります。その答えの一つとして、日本理化学工業株式会社(チョークを製造する会社で、社員の7割が知的障害者)の元会長である大おお山やま泰やす弘ひろ氏がお話しされた、私のとても好きなエピソードを次に紹介します。執筆者プロフィール 教育機関で知的障害者、発達障害者の教育・就労にたずさわるなかで、障害者雇用には一緒に働く職場の理解が必要だと感じ、企業で障害者雇用にかかわる特例子会社の立ち上げ、200社以上の企業のコンサルティングや研修にたずさわる。著書に『障害者雇用を成功させるための5つのステップ』、『中小企業の経営者が知っておくべき障害者雇用』等がある(以上、Kindle版)。松まつ井い優ゆう子こさん障害者雇用ドットコム代表東京情報大学非常勤講師1960(昭和35)年身体障害者雇用促進法の制定法定雇用率:公的機関は義務、民間企業は努力目標1976(昭和51)年すべての企業に法定雇用率を義務化当初の法定雇用率は、1.5%1987(昭和62)年「障害者の雇用の促進等に関する法律」に改正法の対象となる範囲を、身体障害者からすべての障害者に拡大1998(平成10)年知的障害者についての雇用を義務化2016(平成28)年事業主に、障害者に対する差別の禁止・合理的配慮を義務化2018(平成30)年精神障害者についての雇用を義務化厚生労働省職業安定局「障害者雇用の現状等」(平成29年9月20日)より編集部作成※「障害者雇用率制度」については以下をご覧ください。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page10.html#01表1 障害者雇用促進法の変遷クローズクローズアップアップ 2024(令和6)年度の障害者雇用状況をみると、民間企業における雇用障害者数は67万7461.5人、実雇用率は2.41%と、過去最高となりました。一方、障害のある人の採用や定着に、頭を悩ませている企業もまだまだ多いのではないでしょうか。そこで本連載では、障害者雇用ドットコム代表で東京通信大学非常勤講師の松井優子さんの解説のもと、企業が障害者雇用を進めていくためのヒントをあらためて探っていきます。企業が取り組む障害者雇用の意義と今後の動向企業が取り組む障害者雇用の意義と今後の動向障害者雇用率向上へのヒント障害者雇用率向上へのヒント第1回第1回働く広場 2025.410

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