進捗状況を共有しています。これにより、業務の支援範囲や責任分担が明確となり、より包括的な支援が可能となりました。また、看護部との協力も重要な役割を果たしていて、病棟での実務に障害者が貢献するための具体的な役割分担が進められています。 採用プロセスも改善されており、障害者が職場に適応するために体験実習や就労目的実習を設けることで、実際の業務に即したスキルを習得する機会が提供されています。ただし、実習期間が終われば採用されるということではなく、実習のふり返りを通じて、障害者自身の適性や意欲を確認し、採用されない場合もあることをお伝えしています。タオル折り専用の部屋を設置し障害者のメンタルを支える 動画でも紹介されました、患者が使うタオル折りは全員にやっていただきます。「奈良医大ではタオルを1時間100枚、1日600枚折らないといけない」と障害者自身が見学に来られたみなさんにお伝えしています。なぜタオルを折るのかというと、職場で摩擦があるなど病棟等への配置がうまくいかなかったときや業務のマッチングができていないときに、そこに帰ってメンタルを回復できる場所、一人ではなく、同僚がいて安心できる居場所として、「失敗をしても再度チャレンジできるようにリセットできる場所」としてタオルを折る専用の部屋を設置しました。 当大学で退職が少ない理由はここにあると思っています。何度もチャレンジしていただいて、その後面談をして、ちょっとがんばろうかとお声をかけて、またがんばって病棟で業務をしていただく、という体制です。 障害者雇用について初期は偏見や不安の声がありましたが、現場の声を聞き、定期的な対話整えることを重要視しながら業務の分担や環境の整備を進めたことで、障害者が職場に定着しやすい体制となりました。障害者雇用の成功には関係機関との連携が不可欠 受け入れ体制の整備という面で障害者雇用の成功の鍵となったのは、継続的なミーティングを基盤とする関係機関との密接な連携です。当大学では、障害者就業・生活支援センターや就労移行支援センターとの月1回のミーティングなど定期的な会議を通じて、仕事の支援を行うのは社内の担当部署である障害者雇用促進係、家族を含めた生活面の支援を行うのは両センターという線引きを明確にしたうえで、課題やの場を設けることで、障害者が業務を遂行できる環境が整備されました。例えば、発達障害のある方には、数字を扱う業務やくり返し作業を任せる一方で、知的障害のある方にはチームで取り組む仕事を割りふるなど、個々の特性にあわせた仕事のふり分けが行われています。一人で静かな環境を好む精神障害のある方には、それに適した職場環境を整えることで、業務の効率化と満足度の向上が実現しました。 障害者雇用の目的は、自立を支援し、チームづくりを通じて障害者自身が考えながら働ける環境を整えることだと考えます。単に仕事の量をこなすのではなく、毎日出勤し挨拶ができるといった基本的なことや、問題解決能力を身につけることなど「質」を重視して取り組んできました。 また、スキルアップして新しい職場で活かし、自信と勇気を得ることで豊かな人生を送れるようになることが目標です。実際に、より条件のよい職場に転職された方もおり、とてもうれしく思いました。最終的には、親が亡くなったあとも自分たちで考えて自立して生活できること、そして安定した収入を得られることが大切だと考えています。 * * * 特別講演ではこのあと、実際に働いている4人の障害のある方が登壇し、会場から寄せられた質問にていねいに答えるなど、活発な質疑応答が展開されました。 次号では、「第32回職業リハビリテーション研究・実践発表会」のパネルディスカッションⅠ「職場でのコミュニケーションの課題について考える」、パネルディスカッションⅡ「障害者就労支援を支える専門人材を育てる~福祉と雇用の切れ目のない支援に向けて~」をダイジェストでお届けします。病院で勤務するスタッフたちとの質疑応答の様子◇お問合せ先 研究企画部企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp)働く広場 2025.429
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