つけ具合などを一つひとつ微調整する必要があります。何十もある部品の種類によって調整具合も違います。しかも、ここで規格からずれてしまうと、そのあとの工程にすべて影響するので、かなり重要な仕事です」 瀬戸製作所が手がける油圧コントロールバルブは、油圧ショベルを操作する“頭脳”のような役割をする制御装置。弁内で主軸部品がスムーズに動き、しかも油漏れしないためのミクロン単位の隙間が必要で、精度の高い加工技術が求められているのだという。 そんな大事な加工現場の一つを任されている石井さんは、作業の流れやコツをくり返し教わりながら、少しずつスキルアップしてきた。その過程では苦労もあったようだ。なかでも当初は、コミュニケーションが不得手であることが、大きな課題だった。 好川さんが6年前、初めて石井さんと同じ職場になったころは、ほとんど会話がなかったという。「当時の上司がちょっと職人気質で、本人にとっては少し怖いと感じる方だったようです。その影響で、本人から周囲に話しかけたり、質問をしたりするようなこともありませんでした」 その結果、石井さんはトラブルなどが起きるとその場で立ちすくんでしまうしかなかったそうだ。 しばらくしてその上司と替わって、新たに指導役を務めることになった好川さんは、「何があっても絶対に怒らない」、「できるだけ、本人がしゃべりだすのを待つ」ことに決めたそうだ。 「私はもともと叱ることが嫌いですし、本人がいまの仕事をしたいと思っていることはわかるので、少しずつ時間をかけて、つねに私から声がけをして働きかけながら、コミュニケーションの壁をとっぱらっていくようにしました」(好川さん) また好川さんは、少しでも石井さんのことを理解しようと、特性について必要な配慮やサポートの仕方などをインターネットなどで調べ、日々の対応に活かしていったそうだ。 会話のなかでも、その場で返答を急がせることをせず、場合によっては「次のときでいいからね」と時間的な余裕をもたせた。そうやって石井さんの心理的な負担をやわらげながら、多少時間がかかっても自分で意見をいえるような雰囲気づくりを心がけたという。 「いまでは、ずいぶんしゃべってくれるようになりました。最初に会ったときとは全然違います。また、何かミスやトラブルがあれば、すぐ私のところに来て報製造された油圧コントロールバルブ切削装置に材料をセットする石井さん石井さんは、工程ごとに3台の機械を使い分けている切削前の材料切削後の部品。切削を経て表面が滑らかになっている働く広場 2025.46
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