はじめに 多様性を尊重し、だれもが能力を発揮できる職場づくりは、企業にとって不可欠なテーマとなっています。特に障害者雇用においては、採用にとどまらず「どのように職場環境を整備し、障害者が活躍できる場を提供するか」が問われています。その鍵となるのが「合理的配慮」と「職場環境整備」です。 障害者に対する合理的配慮の提供義務は、障害者雇用促進法と障害者差別解消法によって定められています。前者は雇用分野において、後者は雇用以外の分野が含まれます(図表1)。今回は雇用の現場で企業が果たすべき責任を明確にするため、障害者雇用促進法における合理的配慮に焦点をあてて解説していきます。「障害者雇用促進法」における合理的配慮とは? 「障害者雇用促進法」による合理的配慮は、2016(平成28)年4月から障害者に対する差別の禁止とともに、事業所の規模や業種に関係なく、すべての事業主に義務化されています。合理的配慮とは、障害のある人がほかの人と平等に働くために、職場において必要な対応や調整を行うことです。合理的配慮は、本人の申し出(ニーズの表明)を起点とし、それに対して企業が可能な範囲で対応するという「双方向の対話と調整」によって進められるものです。 そして、このプロセスのなかでは、次の三つの視点が特に重要となります。1.本人の困りごとや配慮の希望を明確に把握すること2.業務内容や職場環境との整合性をふまえ、企業側の対応可能性を検討すること3.現実的かつ実効的な着地点をともにみつけていくこと 本人からの申し出には、企業として対応がむずかしいと感じる場合もあります。そのようなときでも企業と本人の相互理解と調整のなかで、業務に支障なく配慮を実現する方法を検討することが求められます。また、障害の種類によっては、業務を遂行するうえでどのような支障があり、どのような配慮が必要なのかが、見た目だけではわからない場合があります。障害の種類や障害者手帳の等級が同じ場合であっても、一人ひとりの状態や考え方は違いますし、職場環境などによって求められる配慮も異なります。そのため、取るべき対応は個別性が高いものと認識しておくことが大切です。具体的にどのような措置をとるかについては、本人と企業側とで「対話」したうえで決めることが求められます。 なお、合理的配慮の提供は「過重な負担とならない範囲で」(※)行うものです。この「過重な負担」とは、企業にとって過度なコスト、著しい業務への支障、安全性の確保が困難になるなど、著しく合理性を欠く対応をさしま執筆者松まつ井い優ゆう子こさん障害者雇用ドットコム代表東京情報大学非常勤講師図表1 合理的配慮の提供義務法律名対象障害者合理的配慮の例障害者雇用促進法採用や雇用でかかわる障害者・業務指導の担当者、専任者を配置する・作業指示や伝達に曖昧な表現をしない・習熟度に応じて業務量を増やす障害者差別解消法商品やサービス等を受ける障害者・段差がある店舗にスロープ等を設置する・セミナーや説明会で、手話通訳や筆談、音声ガイドを準備する筆者作成クローズクローズアップアップ 障害者の法定雇用率が引き上げられるなかで、障害者雇用は「採用する」時代から、「職場で活躍できる環境をいかに整えるか」が問われる段階へと移行しています。また法定雇用率の達成に加えて、人的資本経営やDEIの観点からも、合理的配慮や職場環境整備の面において、実効性ある取組みが企業に求められています。 そこで第3回では、松井優子さんの解説をもとに、組織に受け入れられる合理的配慮の進め方を実務的にひも解いていきます。障害者雇用率向上へのヒント障害者雇用率向上へのヒントすべての社員が力を発揮できる職場すべての社員が力を発揮できる職場~企業に求められる合理的配慮とは?~~企業に求められる合理的配慮とは?~※厚生労働省「合理的配慮指針(平成27年厚生労働省告示第117号)」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000082153.pdf第3回第3回働く広場 2025.610
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