働く広場2025年6月号
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す(図表2)。合理的配慮についてはすでにたくさんの資料や事例がありますので、それらを参考にしながら、自社の合理的配慮を検討していくとよいでしょう(図表3)。合理的配慮を組織として受け入れやすくするために 合理的配慮を考える際には、職場全体の最適化を考える職場環境整備もあわせて考えていきます。職場環境整備のベースには「ユニバーサルデザイン」の考え方である「多様性」を前提とすることにより、組織として受け入れやすくなります。特定のだれかに配慮するということではなく、障害の有無、年齢、性別、文化的背景などに関係なく、すべての人が使いやすく、働きやすい仕組みを最初から設計するというアプローチです。 聴覚障害のある社員に対して会議中に文字起こしツール等の「就労支援機器」を導入するのは合理的配慮ですが、すべての会議室にモニターや音声認識ツールを常設することは職場環境整備にもなります。こうした設計は、結果として企業全体の「働きやすさ」につながります。設備等のハード面だけでなく、ソフト面の働き方の柔軟さ(時差出勤、在宅勤務、短時間勤務等)も含めることができます。「就労支援機器」とは?就労支援機器とは、障害のある人が業務を行いやすくするための補助機器や技術です。視覚障害のある人には音声読上げソフトや画面拡大ツール、聴覚障害のある人には会話文字化アプリ、肢体不自由のある人には視線入力や電動昇降デスク、発達・精神障害のある人にはタスク管理アプリやノイズキャンセリング機器などがあります。近年では、ITやAIの進化により、こうした機能がアプリやクラウドサービスとして利用しやすくなっています。リアルタイム字幕生成、音声でのパソコン指示、スケジュールやタスクを自動調整するツールなど、汎用技術が支援機器として応用されるケースが増えています。★今号の「JEEDインフォメーション」13ページでもご紹介しています。ご参照ください。合理的配慮の社内理解と風土づくり 合理的配慮は制度や設備を整えたとしても、実際に働く職場の人の「理解」がなければ実現しません。そのため周囲の理解を得られる環境をつくるために、社内全体への情報共有や社内研修が必要です。社内に「知る」、「考える」、「話す」場があることで、障害のある人への接し方に対する漠然とした不安が払拭され、自然な関係性を築きやすくなります。特に研修では、管理職やマネジメント層への理解を進めることが重要です。障害のある人を含めたすべての人材に対するマネジメントや人材育成の視点をもつことで、社内における理解が進みます。 合理的配慮を実施するうえで最も避けたいのが、「あの人は特別扱いされている」という誤解や対立の雰囲気です。これを防ぐには、「合理的配慮は特別ではなく、公平を実現する手段である」ことを、組織全体で共有しておく必要があります。また、障害者を含めた多様な人材を対象とした取組みは、全従業員にとって働きやすい職場づくりにつながります。* * * * * 次回は、「選ばれる企業」になるための障害者採用について解説します。図表2 合理的配慮の“現実的な調整”で考慮する要素図表3 合理的配慮の参考資料筆者作成筆者作成事業活動への影響費用負担財務状況企業の規模公的支援の有無実現困難度★合理的配慮は、企業にとって無理のない範囲で、本人との対話を通じて工夫や調整を行うことが基本とされています。本図表は、その際の判断の参考となる視点を整理したものです。【過重な負担の可能性のある要素】●合理的配慮指針事例集【第五版】(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001230884.pdf指針事例集●障害者への合理的配慮好事例集(令和6年3月)(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001234010.pdf●障害者雇用事例リファレンスサービス(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)https://www.ref.jeed.go.jp/●障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A【第三版】(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001237499.pdf好事例集Q&A集働く広場 2025.611

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