働く広場2025年6月号
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か訪問をしてみたいと考えていた。 今回はその願いが実現し、本稿は、高次脳機能障害のある人の就労支援に関し、おもに就職前や就職時の支援を行った障害福祉サービス事業と、その高次脳機能障害のある人を受け入れた企業を訪問し、どのように就職(採用)や、職場定着に向けた活動が行われているのか、一つの例ではあるが、レポートするものである。なお、障害福祉サービスを利用しながらの一般就労という観点も交えることとしたい。  先述した、高次脳機能障害のある人の就労支援を行っている障害福祉サービス事業所として今回訪問したのは、特定非営利活動法人高次脳機能障害者支援「笑い太鼓」である。同法人は、愛知県内の豊とよ橋はし地域と名古屋地域で事業を展開しており、そのうち今回は名古屋市にある「高次脳機能障害者サポートセンター笑い太鼓(以下、「笑い太鼓」)」を訪問した。同事業所は、障害者総合支援法上の位置づけでは「地域活動支援センター」、「相談支援事業所」となる。 地域活動支援センターとは、厚生労働省によると、障害者等を通わせ、創作的活動または生産活動の機会の提供、社会との交流の促進等の便宜を供与する障害者総合支援法上の施設である。また、地笑い太鼓は間接的な形で、それぞれの機関の役割のもと、労働行政側の機関である地域障害者職業センターや障害者就業・生活支援センター等がになうこともあれば、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスがになうこともある。  ところで、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス事業所による就労支援プロセスのイメージとは、就職する前に障害福祉サービス事業所で「訓練」を受け、その利用者が企業に就職したらその障害福祉サービス事業所は「卒業」となるというものであろう。そして、就職後は就労定着支援・アフターフォローを受けることがあるにしても、基本的には障害福祉サービス事業所と企業とに同時に所属することはない、ということになると思われる。 一方、政策のうえで雇用と福祉的施策の連携が重視されるなかで、「一般就労中における就労系障害福祉サービスの一時的利用」というテーマの研究に筆者は近年たずさわってきた。そして、その研究のなかで、高次脳機能障害のある人に対し、障害福祉サービス事業所に所属・登録しながら一般就労をしている人の支援を行っている(一般就労と障害福祉サービスの併用をしている)障害福祉サービス事業所があるという情報を得て、いつ障害福祉サービス事業を 併用しながらの一般就労  高次脳機能障害とは、脳の器質的病変の原因となる疾病の発症や事故による受傷の事実が確認されており、現在、日常生活または社会生活に制約がある状態であり、この用語が用いられる文脈によって、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害に限定する場合と、失語、失認、失行を含む場合があるとされる。いずれも脳の病気や損傷により、記憶や注意等の障害が生じ、その結果生活上に制約が生じている状態であるといえる。 職業への障害の影響として「新しいことを覚えるのがむずかしい」、「新しいことや問題に直面すると混乱し、対応策が考えつかない」といった課題がある場合がある。また、感情面のコントロールを行うことがうまくできなくなり、対人関係に支障が出て、職業適応上の問題が出ることもある。 こうした課題のある高次脳機能障害のある人への就労を支えるためには、就職前に訓練を行って就職や就職後に備えるという方法では効果がかぎられることがある。その場合、就職先の企業現場においてのジョブコーチ(※1)による職場に適応するための直接的支援や、生活面の支援も視野に入れた就職後のアフターフォローといった継続的な支援が必要となる。このような支援は、直接的あるい高次脳機能障害とは高次脳機能障害への専門性の高い支援機関1ジョブコーチの活用により企業に障害特性などを適切に伝達2一般就労後も地域活動支援センターを柔軟に利用3POINT※1ここでいう「ジョブコーチ」とは、国の職場適応援助者制度に基づくもののほか、ジョブコーチ的に就労支援担当職員が活動する場合も含めている働く広場 2025.621

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