働く広場2025年6月号
4/36

失語症者との〝会話のキャッチボール”を ~社会参加に向けて~NPO法人言語障害者の社会参加を支援するパートナーの会 和わ おん音 清水美緒子働く広場 2025.6※1 杉本香苗,佐伯覚:脳卒中の職業復帰—予後予測の観点から—.JpnJRehabilMed55:858–864,2018※2 種村純,総説言語コミュニケーション障害者への医療福祉,川崎医療福祉学会誌増刊,409–417,2012 失語症は後天的な障害です。失語症は脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患や、事故による頭部外傷などで大脳の言語中枢が損傷を受けることによって、言語を操る能力に障害が残った状態をいいます。 失語症になると、程度の差はありますが、「聞くこと」、「読むこと」という理解に関する能力、「話すこと」、「書くこと」という表出に関する能力、そして「計算する能力」、「数字を理解し、表出する能力」に障害が生じます。 失語症というと、話せない障害と思われることが多いのですが、理解面、表出面それぞれに困難が生じるのが特徴です。そして現代の情報社会において、言語を操る能力を十分に発揮できないことは大きな痛手となり、本人を孤立させ、社会参加を非常に困難にさせます。 そんな失語症の人とどのように会話をし、意思疎通を図ればよいでしょうか。 会話はよくキャッチボールにたとえられます。ボールを投げるのが苦手な人には、受け取る人が上手に受け取る工夫をしたり、受け取るのが苦手な人には、受け取りやすいボールを投げてあげればキャッチボールは長く続きますね。 会話も同じです。・失語症の人が話すときは急せかさず、本人がいうのをじっくり聞く・ゆっくりと、簡潔に、2~3文節程度の短い文で伝える・指示を口頭で伝えるだけではなく、要点を単語や図を用いて簡略に書いて説明する・数字は非常に間違えやすいので、日付、金額など数字は必ず紙に書いて伝える このような配慮で、会話は進みやすくなります。 失語症の人の努力も必要ですが、相手の配慮や工夫により会話が行いやすくなる。これがすなわち言葉のバリアフリーの考え方です。 NPO法人和音ではこのような考え方に基づき、失語症の人と上手にコミュニケーションが取れる人材を育成してきましたが、これは、職場における失語症者との意思疎通にもあてはまります。 失語症の人はうまく話せない、理解できないことに負い目を感じています。みなさんが時間をかけてでも意思疎通を図ろうと歩み寄る姿勢を示すことが、大きな支えとなります。 発症する前と同じように働くのがむずかしいのは事実です。でも、失語症になっても記憶や社会性、礼節、その人らしさは変わりません。それまでの人生でつちかわれた知識や経験は本人のなかに残されています。失語症の人に残された言語能力、そしてそれ以外の保たれた能力を活かして働ける場はきっとあるはずです。 とはいえ、働ける場をみつけるのは簡単ではありません。脳卒中全般の復職率が45%(※1)なのに対し、失語症者の就業年齢における職業復帰率は10%以下(※2)といわれます。その理由はいくつかありますが、一つは職場では意思疎通・情報共有の正確さが求められるので、これが失語症の人だけの努力では対応しきれず、2

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る