働く広場2025年7月号
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てきた。聴覚障がいのある油谷さんは、通常の会話はできるため、入社前に「少し聴こえにくいので、迷惑をかけることがあるかもしれない」と伝えていたそうだ。 だが実際に工場内で働き始めてみると、予想以上に、相手の声が聴き取れないことに気づいた。特に機械音で騒がしい現場での細かい指示や、自分に向けられていない会話などは聴き取りにくかったという。「まだ人間関係ができていなかったこともあり、内容を聞き返すことがなかなかできませんでした。その結果、何度かミスをしてしまったこともあります」と明かす。 入社以来10年以上にわたり先輩として指導してきた小こ林ばやし晶あき子こさんが、当時のことをふり返ってくれた。 「最初のころ、『わかりました』といったあとに勘違いしていたことがありました。それで一時期、指示した内容をその場で復唱してもらうことにしました。すると本人も、自分から『もう1回いってください』などと積極的に確認するようになっていったように思います」 その後、職場に慣れるなかで本音もいえるようになり、いまではわからないときもすぐに確認できるようになったそうだ。 油谷さんは5年ほど前、上司にすすめられて国家資格の機械検査技能士2級試験を受け、2回目で合格できた。2年前からは、機械を使っての専門的な検査業務を任されている。「覚えることが増えたので、たいへんなことも多いですけど、キャリアアップという意味でも、自分の身になっていると実感しています」と話す。次は、機械検査技能士1級試験にも挑戦したいという油谷さんは、「ゆくゆくは、職場の上司や同僚から安心して仕事を頼まれるような存在になりたいですね」と語る。小林さんも「本人の努力もあり、すっかり成長して、いまではかなり助けてもらうこともあります。今後も活躍していってほしいです」と笑顔で激励していた。 日本AMCは2017年から、企業と特別支援学校の連携・協力を推進する福井県の制度「『ともに働く』就労応援ふくい」サポーター企業に登録し、職場見学・就業体験・現場実習の受け入れを行っている。同様に、就労支援機関などからの職場見学・就業体験も続けている。「職場全体で人材不足というわけではありませんが、今後も特別支援学校からの実習生は受け入れますし、採用活動も続けていきます」と高橋さんは語る。 一方で、現場の支援担当者や同僚に過だれもが働きやすい職場に度な負担がかからないよう、フォローが必要な場面も増えている。平瀬さんは、2022年にJEEDの「企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修」を修了し、継続的に「職場適応援助者支援スキル向上研修」も受けているそうだ。「私たちの障がい者雇用についての姿勢は、会社全体のダイバーシティ推進にもつながっているので、ぶれずに取り組むことができていると思います」と平瀬さん。実際に職場では、フィリピンやベトナムなど5カ国の出身者が15人、60~70代の従業員も20人働いており、コミュニケーションや体力などのハンデを軽減する工夫をしてきた。 こうした会社全体の取組みの軸となっているのが、「『だれでも、いつでも、どこでも』働きやすい、働きがいのある職場づくり」という社長方針だ。 高橋さんは「職場では、子育てや介護、病気療養など、いつだれがサポートを必要になるかわかりませんよね」としたうえで、「障がいの有無に関係なく『働きやすい職場づくり』は基本的に同じです。さまざまなサポートや職場改善の取組みが、だれにとっても働きやすい職場につながりますし、またサポートする側も、一緒に成長できるということを実感しています」と語ってくれた。品質保証部の油谷宏明さん油谷さんは、製品の検査業務を担当している品質保証部で油谷さんの指導にあたってきた小林晶子さん働く広場 2025.79

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