働く広場2025年7月号
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「工房わかぎり」です。2008年に就労継続支援B型事業所に移行し、2017年には念願だった社会福祉法人わかぎりとして独立しました。私は2021(令和3)年から同法人の理事長を務めています。この法人化を契機にグループホームわかぎりの家(定員5名)を開設しました。地域社会とつながり、自立につなげる――「工房わかぎり」について教えてください。柳本 工房わかぎりはおもに知的障害のある人のために働く場を提供し、日々の生活や作業を通して社会的自立につながる支援を行っています。定員20名ですが、ずっと満員状態で、70代の方もいらっしゃいますね。いまでは大塚特別支援学校の卒業生だけでなく、地元地域に住む人たちも利用されています。活動場所は賃貸ビルの1~3階フロアです。 ここで手がけているのは手芸品や革製品。晒さらし生き地じや布バッグに、利用者たちが刺し子縫いや羊毛刺繍をほどこします。ときにボランティアさんから支援を受けて、外部の作家さんがデザインした下絵に沿って、好きな色の糸を選びながらていねいに縫っています。近年、特に力を入れているのが革製品で、パスケースや小銭入れ、ミニバッグなどをつくっています。職員が型に合わせて裁断したものを、利用者さんが手縫いし、断面を専用の薬品で磨き上げて仕上げます。 利用者さんたちは、いまや職人さんのように上手な人たちばかりですね。細かい作業を集中してやり続けられる能力を、いかんなく発揮しているように思います。商品そのもののよさが認められ、バザーや展示即売会での売り上げが好調で、地域の学校からも卒業記念品として注文をもらうようになりました。私自身も驚いたのですが、前年度は全員に臨時ボーナスが出るほどの販売実績でした。 就労継続支援B型事業所というのは作業成果によって工賃を払いますから、やはり商品開発や品質、営業が大事だとつくづく感じます。工房わかぎりでは、英語を併記したホームページで「製品の質とデザイン性にこだわる」ことを打ち出し、オンラインも含めて積極的な販売促進に努めています。 そして、いまの施設長は特別支援学校の元教諭で、職員たちと一緒にいろいろなアイデアを出し合い、積極的に動いてくれています。昨年は新たな取組みとして、羊毛刺繍が得意な利用者さんがサポート役になり、ワークショップを何度か開催しました。地域の方たちが参加してくださり、とても好評だったので今後も続けていく予定です。もちろん収益の一部になっていますし、何より、地域社会とつながるよい機会になっていることがうれしいですね。主体性を持って人生を歩めるように――これまでをふり返り、障害のある人の自立支援について、お考えをお聞かせください。柳本 やはり特別支援学校を卒業したあとも、青年学級のような第三の居場所が、いろいろな所にあったほうがいいなと思っています。地域の人たちもなんらかの形でかかわったり参加したりできる機会がもっと増えるとよいですね。 一方で、障害のある人の自立支援という考え方が浸透したいまの時代、より重視されるようになったのが、本人の主体性です。特別支援学校は、一人ひとりが主体性を持って人生を歩んでいける力を育む場でもあります。以前の教育の場では、進路指導という「進路について指導する」イメージがありましたが、いまはキャリア教育として、自分で考える力を育てていく方向に移行しています。そういう意味では、障害者雇用をされている企業側のみなさんにも、職場におけるキャリアアップのほか、地域社会での自立を視野に入れた活動の機会提供やサポートなどをしていただけるとよいのではないかと思います。特別支援学校の卒業生をはじめ障害のある人たちが、地域社会とつながりながら主体性を持って学び続け、自立していける環境・仕組みがさらに充実していくことを願っています。働く広場 2025.73

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