働く広場2025年8月号
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 障害者雇用がいま、大きな転換点を迎えています。これまで4回にわたり「障害者雇用率向上のヒント」をお届けしてきましたが、最終回となる今回は、テクノロジーによって開かれた新たな働き方と、その可能性を実践している日にっ揮きパラレルテクノロジーズ株式会社(以下、「JPT」)の事例をみていきます。社内課題から生まれた「IT×障害者雇用」という発想 JPTは、2021(令和3)年1月に設立され、同年10月に日揮グループの特例子会社として認定されました。その背景には、グループの分社化により法定雇用率を満たすことが急務となっていたこと、また、社内ではIT・DX推進の必要性があるもののIT人材の不足がありました。 決め手となったのは、IT分野に特化した就労移行支援事業所の見学。そこでは、精神障害や発達障害のある人たちが高い集中力や論理的思考力を活かし、AIやWeb制作などの分野で実力を発揮していました。その様子を目の当たりにし、「これだ」と直感したといいます(図1)。採用から定着まで、テクノロジー時代の新しい障害者雇用モデル JPTが実践する障害者雇用モデルは、まさにテクノロジー時代に最適化された働き方です。最大の特徴は「フルリモート・フルフレックス勤務」。社員の多くは全国に分散しており、出社する必要はありません。自宅で、自分のライフスタイルにあわせて働ける環境が整えられています。働く時間も柔軟で、深夜帯(22時~翌5時)を除けば、朝型・夜型といった個人のリズムにあわせて自由にスケジュールを組むことができます。週20時間からの短時間勤務も可能で、育児や体調面など多様な事情に対応しています(11ページ、図2)。 業務のスタイルも独特です。JPTでは「1人1業務」という体制をとり、1人の社員が顧客との要件定義から設計・開発・納品まですべてを担当します。これにより、対人ストレスなどによる体調悪化といったリスクを最小限に抑えるとともに、個々の強みや裁量を最大限に活かすことができています。 また、プロジェクトの内容は「重要だけれど、緊急ではない業務」に絞られているのが特徴です。DXが求められている社内業務のIT化やシステム改善など、日々のオペレーションに追われがちな現場では手がつけられない領域をJPTがになうことで、全体の執筆者松まつ井い優ゆう子こさん障害者雇用ドットコム代表東京情報大学非常勤講師図1 会社概要設立: 2021年1月12日名称: 日揮パラレルテクノロジーズ株式会社 JGC Parallel Technologies Corporation株主: 日揮ホールディングス株式会社 100%資本: 1千万円社員: 46名(2025年4月1日現在) ※内43名が身体または精神・発達障害者業務: 日揮グループ内のIT業務支援(資料提供:日揮パラレルテクノロジーズ株式会社)クローズクローズアップアップ いま、障害者雇用は新たな転換点を迎えています。従来の職域や働き方の枠を超え、ITスキルを活かしたリモートワークや柔軟な勤務体系が広がるなかで、精神障害や発達障害のある人たちの可能性に注目が集まっています。最終回は「IT×障害者雇用」という革新的なアプローチで成果をあげる日揮パラレルテクノロジーズ株式会社の実践事例を通じて、これからの障害者雇用のヒントを探ります。現場に根ざした障害者雇用のコンサルティングに長くたずさわってきた松井優子さんが解説します。障害者雇用率向上へのヒント障害者雇用率向上へのヒント未来の障害者雇用に向けた企業の取組み未来の障害者雇用に向けた企業の取組み~「IT × 精神・発達障害」で存在感を増す企業の事例から~~「IT × 精神・発達障害」で存在感を増す企業の事例から~最終回最終回働く広場 2025.810

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