作業は、数秒ごとに1回の割合で金属板を入れ替えるので、集中力も必要だ。小野さんは「金型によって段取りの仕方が違うので、それに慣れるまでが苦労しました」と話しつつ、「モノづくりという仕事が合っていると思うので、続けてこられました。今後はほかの業務、例えばタップ加工なども担当できるようになりたいですね」と意欲を見せてくれた。 なかには採用後、雇用継続が困難と思われる状況になっても、周囲の粘り強い支援と本人の努力で、定着と戦力化につながったケースもある。 久く米め耕こう平へいさん(23歳)は、特別支援学校在籍時の職場実習を経て2020年に入社し、製造部製造2課スポットグループで梱包作業を担当することになった。 顧客から注文を受けた数種類の部品を組み合わせて梱包するため、ある程度の商品知識や選別・判断力などが必要だという。そこで活用されているのが「絵え皿ざら」と呼ばれる大きな板とバーコード照合だ。必要な1セット分の部品の形に合わせて型抜きされた専用トレーに、バーコードで照合した部品をはめ込むことで間違いを防止できる。絵皿は現在10種類ほどあるそうだ。以前、ほかの従業員のために粘り強い支援と努力改善を重ねて完成させたもので、「だれでもミスなく完成できます」と箱根さん。久米さんも、当初はジョブコーチの支援を受けながら無事に習得した。 ところが、その後しばらくして、勤務中に長い時間トイレにいたり、作業に波が出てきたりするようになった。 そこで、管理部経理・総務課で課長を務める岩いわ浪なみ真ま弥やさんが対応に乗り出した。障害者職業生活相談員でもある岩浪さんは、定着支援を担当してもらった障害者就業・生活支援センターのジョブコーチに相談し、再び現場で指導してもらうことにした。岩浪さんや久米さんの母親も一緒に現場で見守る日々だったそうだ。 またジョブコーチの助言を受けて岩浪さんは、久米さんと交換日誌も始めた。「毎日の作業内容を点数化して一緒に確認し、親御さんにもコメントをもらい、みんなで叱咤激励の言葉をかけていましたね」(岩浪さん) そうして1年ほど経ったころ、岩浪さんが「もう明日から1人でもがんばれるね」というと、本当に翌日から独り立ちできたという。専務取締役の横山さんが「いまでは逆に、ルールと手順を守りながら黙々と梱包を仕上げています。ほかの従業員でもなかなかできません」と舌を巻くほどだ。岩浪さんは「ときに厳しい母親役だったかもしれないですが、見守られながら仕事を続けるうちに、続けること自体に慣れていったのかもしれませんね」と安あん堵どする。 久米さんに当時のことを聞いたところ、「あのときは仕事を続けられるか不安でした。日誌で、岩浪さんとやり取りできたことがよかったです。いまは自分で組み立てる仕事ができているので、もっと早く作業できるようになりたいです」と元気に答えてくれた。 これまでカシマでは、外国籍や障がいのある従業員のために重ねてきた工夫や改善を、全職場に波及させることで「全社的に働きやすい環境づくり」を図ってきたという。 その集大成の一つが、部品ストアと呼ばれる商品ピッキング作業の現場だ。「以社内蓄積の集大成も部品ストアの棚には4桁の背番号が番地のように表示されている製造部製造2課スポットグループの久米耕平さん管理部経理・総務課課長の岩浪真弥さん部品の形に合わせて型抜きされた絵皿に部品をセットする久米さん働く広場 2025.98
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